メロに告げるその声が、
 メロを守るその腕が、
 メロを包むその背中が。


『たったひとつのためだけに』



「どれだけ、オレを救ったか、分からないかなっ!」
「…」
「オレはLがなきゃ、死んじゃうんだ。」
「…」
「オレはLがいなきゃ、頑張れない」
「…」
「早く、大人になりたい。」
「早く、大人になってLが嘘をつかなくていいようにしてあげたい」
「早く、大人になって、Lが泣いたって、叫んだって、誰からだって守れるように大きくなりたい」

「Lがしてくれたみたいに」


「Lは卑怯だ。オレを信用してないから、嘘を言って、『大丈夫』だなんて、ちっとも思ってないのに、本当は怖い筈なのに、そんなことを言う。」

「本当はいつも あの時の顔で 空を見上げているのに それを 隠す。」

「だから、だから、オレは。」


 メロの声はジワジワ、ジワジワと私を溶かす。
 ジワジワ、ジワジワと私を暖かくする。
 ジワジワ、ジワジワ、ジワジワと。
 好きでたまらなくさせるのだ。

 だから、キスをした。
 まだまだ子供だ。自分の感情をはっきりと見分けもつかないくらいの、子供だ。
 いくら他の子供達よりも聡く賢くあったとしても、
 もしその気持ちに錯覚なんて一つも入っていなかったとしても、
 窘めて、普通の道に戻してやることの出来る段階のように思う。
 希望を持たせて、万一死んでみろ。感情豊かで、責任感の強いこの子はきっとそのまま、己の言葉の通りに奔走してしまうことだろう。
 それは気持ちを持たれる私にとっては何と甘く嬉しい蜜だとしても、正しい道に戻してあげるのが大人としての義務であるのに。
 私はキスをする。
 ゆっくりと長く、存在を確かめるような口付けをする。
 私はその場に蹲まり、顔を上げる。
 メロは上半身を軽く折り、私の手を握って、それから唇に触れた。
「…早く大人になってくださいね」
 唇を離した後、私は確たるメロへの返事をするのを避けるように、そう口にした。
 そんな事は無意味だと分かっていても、今はまだその言葉を口にするだけの勇気は持てなかった。
「…約束だ」
 メロはそれでも口許に笑みを浮かべて告げる。
「絶対約束だ。早く大人になるからー、だから、僕を呼んでー」
「はい、メロ」
「早く大人になって、いつでも傍にいるから――」


 メロの大人になりたいという願いなのか、口付けはビターのチョコの味がした。


 少しだけ苦いキスが私の心を、私に語った愛の言葉のように、優しく包みこんだのだった。



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2006.01.20up
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