掟というものはどこにでも存在するんだ。
 それに見合う量、それに見合う程度、それが原則。
 ひとつ。
 だから、ひとつ。
 どうしても、ひとつ。
 命の対価。
 だけど、お前。とんでも無いやつだ。

 そういうと彼は笑った。


『たったひとつのためだけに』



 ガチャン!とスピーカー越しに不吉な音を聞いて、一瞬脳内が真っ白になる。
「ワタリ?」
 唇から吐息と一緒に漏れ、わずかに腰を浮かせてモニターを覗き込んだ。
 どうして
 どうして
 何故。
 怒りと悲しみと。ぽっかりとした胸の内を感じながら、『もしも』のスイッチが入ったことを知る。
「死神…!」
 感情を押し殺し、辺りを探る。
「皆さん死が…み…!」
 突如、心臓が不自然な動きを見せた。
 躰が硬直し、瞳孔を見開いたまま、急速に末端から力が失われてゆく。
「竜崎!」
 声が聞こえた。
 誰の声だ?
 誰を呼ぶ声だ?

 それは私の名では無い。


 私は見開いた目で凝視する。
 目の前に犯人がいる。
 私は見開いた目で凝視する。



 そして私は手を伸ばす。





 例えば、それは真っ暗な迷路に一際強く輝く光の筋。
 ほんの小さな今にも消えてしまいそうな蝋燭(ロウソク)の炎だったとしても、闇夜に彷徨う旅人になら、それは心を震わせるくらいに強い希望の光だと思う。


 金の光。
 太陽を燦燦と浴びて、輝く金の糸。






 ごめんなさい、
 一言伝えたかった。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 愛してくれて、有難う。



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2006.01.20up
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