ねえ。とても残酷だね。


第一話・はじめまして。


 遠くで鐘の音が響き渡るのが、聞こえた。
 それはもう冷たい秋の風に溶け込んで、耳を凍らせる。
「困り…ました、ね」
 彼はそう呟くと、僅かな動作で天を仰いだ。
 自分に祈る神もいないけれど。
 鐘の残響音に混じって、『彼等』の声が聞こえる。
 この国の修道士達に衛兵。
「引っかかってくれると良いのですが…」
 隠れていた場所は密告によって暴かれたので、着の身着のまま。
 裸足同然で駆け出して、この有様。
 これほど自分の身の上を呪ったことなどない。
「…ッ」
 ズキン、ズキン…と鈍く広く、痛みは体を浸透していった。
 同時に寒さも足元から忍び寄り…、否。もう既にこの足は氷のように冷たく、凍えている。
 ぞんざいに扱えば、ポキリと折れてしまいそうな程に。
 彼は、緊張した面持ちで、それでも息を潜めた。
 いくらこのまま倒れてしまいそうでも、今はそれを上回る恐怖がある。
『死』という恐怖に脅かされて、彼は細く呼吸し、気配を絶つ。
 声が波のように絶え間なく押し寄せて来て、それに意識を集中させた。
 心の中はどうか去ってくれ。それ以外は無い。
 こくっと喉が動く。
 カラカラの空気に晒され、喉に水気は残っていない。
(気管がへばりついて、剥がれなくなりそうだ。)
 彼は徐々に去ってゆく気配と高らかな声に、そんな事を思って息を吐いた。
(どうやら…今回は運良く撒けた―――ようですが…それも時間の問題でしょうね)
 安堵の息を吐くにはまだ早い。
 急いでここから立ち去らなければならないと言うのに、足も手も動こうという気配を一切見せなかった。
(ああ…困ったことに目が霞みます…)
 早く、急いで。
 気持ちだけは彼を叱咤するが、少しでも気を抜けばもうこの体は動きそうにも無い。
(私はここで死ぬのでしょうか?)
 自分自身のことだとしても、何とも想像がつきにくい。
 今も死にかけているというのにも拘わらず。
 彼の体がずるずると壁を伝って落ちて、遂に膝を折った。
 傷口だけは熱を持っていて、彼はそれを庇うようにくるりとそのまま体を丸めた。
(逃げなければ、逃げなければ。…でも。)

 寒い。


 少しだけこのまま。
 そう思って目を閉じようとした瞬間、声が聞こえた。
 彼が座りこんでしまっている少し離れた場所で声が聞こえる。
 声の主はニアのいる裏口の通りから出掛けようとしているようだった。
 ざっと上半身だけをすばやく起こす。
(走って逃げたとしても、間に合うはずもない。)
 すぐそこに迫った生命の危機に、彼の体の総てが再起動する。
(一人だけなら、あるいは―――)
 思考が電子のようにパパパと閃いて、彼は固唾を呑んで粗末な戸を凝視した。
「んじゃ行ってくるな」
 ガチャ。
 内と外の繋がった瞬間にクリアに声が耳に響く。
 黒いドアからふわりと金色が覗く。
 まるで、夜の闇を払う太陽のようだ。
 彼はそう思い、その金をただみつめた。
「では、メロ、頼みましたよ」
 遠くから、先ほどまでは聞こえなかった声が室内を反響して、金色の彼の耳まで届く。
「ああ、わかって――――る」
 戸を閉めながら振り向いた金色のが、彼を見つけて目を見開いた。
 彼は。
 彼は、なんとはなしに口を開いた。
「初めまして、メロ」


Next second stage


…………………………
…あとがき…

うっかり始めてしまったニアメロ連載。
ニアメロ連載は前からやりたいなあ、と思っていて、本当はこんなんじゃ無かったのですが、結構書きやすげだったので、こんな感じになってしまいました☆
ちなみに、彼=ニアです。
ああ、このままずっと書いていたら、明日の朝には完結できそうなのに!(無理な話)
機を逃して、ボツにならないように気をつけます。
てゆーか、これ、漫画で描こうとしてたのですが、どうもこうも、画力がなくて、このページの分だけ1Pで終わりました(笑)
どうでもいいですが、文章を捻り書くスピードが若干遅くなってる気がします。
水野やおき 2005.11.13

日記での連載形式をとっておりましたが、移しました。
2006.06.08




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