彼はただ、そう言った。


第四話・出生。


 騙されているとか、そういうことは不思議に脳裏に一切過ぎらなかった。
 今、体を包むのは生命の危機を一時長らえたのだという安堵感。
 それから、身を包む柔らかなブランケットの温もりと、火の粉の爆ぜる家庭的な音のもたらす安心感。
 夢へと誘うようなたゆたうまどろみ。


 偶然だったのか、それとも必然だったのか、私がやはり悪魔なのか、そうでないのかは未だに私には解らずにいる。
 ただ、周りの人間はそう言うし、私自身不思議な力が使えるので、そうでは無いかと思うことはある。
 もっとも、この身に宿る力が一般的なのか、そうでないのかさえ、私に知らずにいたのだが、ただ一人、母なる存在の彼女自身も少しだが力が使えたので、私は少しも疑問に思うことは無かった。
 私が幼少時に暮らしていたのは、深い山の中で、彼女も時折しか外出せずに家に篭っていたので、私は日がな一日、ただ空間を眺めたり、食事を作ったり、そして時折相手にしてくれる母親に学ぶ言葉と能力と。ただそれだけの日常を繰り返して来た。
 少しばかり大きくなると、彼女の仕事の手伝いをするようになった。
 この時ばかりは私の存在を無視している彼女が疎ましながらも話かけてくれるので、それが面白かったものだ。
 そして、彼女は病に倒れた。
 病状の床の上、彼女の瞳が憎らしげに私を射て、毒々しい程に赤い唇が私への言葉を紡ぐ。
「私の命を返して頂戴…!やはりアンタは悪魔の子。何の感情も無い白い悪魔!私が一体何をしたっていうの!?ただ愛した人と通じただけなのにっ、私とあの人の総てを奪ってッ!!」
 彼女は激昂した後、優しく微笑む。
「ああ、ニア。アナタはこの家から一歩も出てはいけないわ。外に出たら、すぐに殺されてしまうもの。分かったわね?ニア」
 何も分からない私はただこくりと頷いた。
 悪魔と呼ばれても、彼女が酷く怒っても、私には何も理解出来なかったのだから。
 ただ、彼女の様子で、とても悪い事なのだと、そう思っただけだった。
 それから彼女は少しばかりの月日の後に冷たくなった。
 私は言いつけ通り、家から一歩も出なかった。
 たちどころに食料は消え、私はただただ、空を見つめて過ごして行った。
 ある日、「ああ、これはもう手足が動かないな」と漠然と思い、眠りにつこうとした時だった。
 母の力を頼って来た罪人が、私を発見したのだった。

 修道女だった彼女は、訪れた信徒と恋に落ちたらしかった。
 それが誰だか知りはしないが、それは密通。姦淫の罪と呼ばれる罪にあたいする行為だったらしい。
 そしてその彼が変死を遂げ、密通が明らかになり、彼女は烙印を押され、追放された。
 私を身篭ったままで。

 それを親切にも教えてくれた罪人は、私を笑い「人を呪え」と命じた。
「悪魔の子ならそれも簡単だろう?」
「きっとそうだな。あの女は高い力を持ったが故に目をつけられたんだな」
「お前という悪魔をこの世に産み出す為に錯覚させてな。愛だの恋だの。そんなものが本当ならば罰なんぞ受けるはずが無いだろう」
「必然だったんだろうよ。その証拠にすべてを奪ったこの白い髪。良心が咎めることもないだろう?そもそもお前にそんなものなんて存在しないんだからな」

 そしてその男も変死を遂げた。
 私はそれから白い悪魔として、世間から迫害されることとなったのだ。


 確かに、人を呪った事はある。
 傷つけたこともある。


 生きることを許されなかったこの胸は、今も空虚に満ちている。


Next second stage


…………………………
…懺悔…

おやおや。知らない間にどんどん大変なことになっちまったい…。
今書いてるヤツ過去のも含めそうですが、環境がえらく悲惨ですみません。。。
そして、展開があまりにもありふれていて申し訳ありません。(フ)
水野やおき 2005.11.14

日記での連載形式をとっておりましたが、移しました。
2006.06.08




……………………
[0]TOP-Mobile-