彼は眠る。
それはそれは健やかに。


第五話・隣の人。


 とりあえず、彼は私にベットを譲ってはくれなかった。とってもケチだ。
「では、おやすみなさい・・・」
 まあ、手当てをして、匿ってもらっている分際でケチも無いものだろうが、神父候補ならば怪我をしている私にベットを譲ってくれてもよさそうなものなのに。
「ああ」

 彼は私の手当てをした後、おつかいに出てゆき、私はというと彼の提供してくれたベットの上で安からに眠ることが出来た。
 それは、本当にびっくりするくらいの警戒心のなさで、彼が部屋に戻ってきたことも解らないくらいにぐっすりと眠りに落ちていたようだった。
 私が目覚めたのは、夕闇も濃く、ランプをつけた状態でないと手元も見えないくらいの時間だった。
「…ここは…」
「よお」
 ぼんやりと瞼を開いた私の耳に、死角から彼の声が聞こえた。
「…メロ」
「よく眠ってたみたいだな。俺が帰って来ても気づかなかった」
「そう…みたいですね。本を読んでいらしたのですか」
「ああ。ところで物は食べれそうか?」
 問われて、私はこくりと頷く。
「じゃあ、提供できるのはこれくらいだけど、食べればいい」
 言って彼はランプの手前に置かれたお盆を取り上げた。上体を起こした私の膝の上に置く。
 冷めた野菜のスープとまあるいパン。
 私はその食事をしばらく眺めてから、彼の顔をじっと覗き込んだ。
「…よく寝てたからな」
 彼はバツが悪そうな顔で、食事が冷めた事に対してそう述べたけれど、私は不思議で仕様がなかった。
「どうして私によくしてくれるのですか?」
「は?」
「私を匿ったところまでは、まあなりゆきで…とも思うのですが。」
「じゃあ、今もなりゆきだろ」
「そう…ですが」
「理由がないと、物は食べれねーのか?毒が入ってるとでも?」
「いえ、そんなことをする程、愚かではないことくらい分かりますよ」
「愚かか」
「だって、そうでしょう?そのまま見捨てれば、それで終わりです」
「面倒くさくなったとは考えなおのか?」
「だったら放りだせばいい。聖職者が自らの手を汚して毒殺する理由はないでしょう。それにいざとなったら祓えばいい」
 彼は言葉を募らせる私にふぅと息を吐く。
「色々言いたいことはあるが。今は保留にしてやる。早く食え」
「でも、これはメロの食事でしょう?」
「!」
「でしたら、そこまでしていただく理由はありません」
 彼の眉間に皺が寄る。
「小賢しくてムカツク」
「は?」
 言われた言葉が理解し難くて、彼の顔をひたと見据えた。
 やはり眉間に皺を寄せたまま、彼は言う。
「口ごたえすんな。黙って食え」
 なんて横暴な態度。
 けれど不愉快な気になどならなかった。
 ただ、彼のそうした態度が、私にはとても心地よいのだと思わせた。
 負けず嫌いで、無愛想だけど。
 こういうのを優しさと呼ぶのだろう。

 そして彼は私にソファを貸して同じ部屋で寝付く。
 長い逃亡生活の為に、あまり睡眠を必要としなくなったこの体は、昼間にとった睡眠のお陰で今は冴え渡っている。
 暖炉の火は消え、今は月明かりだけが部屋を微かに明るくする室内で、私は毛布を羽織ったまま立ち上がった。
 彼は安らかな寝息をたてている。
「…不思議な人…ですね」
 金の髪がさらりと彼の頬にかかっている。
 それは私の髪質とは全く違うもので、絹糸のように艶やかな髪に興味を覚える。
 指先で掬ってみると、冷たいそれはさらりと指をすり抜けた。

 彼はただ、私の前で健やかに眠っている。


Next second stage


…………………………
…懺悔…

本当にニアメロなのか自身がなくなって来た水野です。
てゆーか、これニアをLにしてメロLでも良かったな(笑)
でも、ニアメロで!激しくニアの性格がアレですけど、目を瞑ってください。
メロも随分と「誰これ」な状態でほとほと水野も困ってます。
水野やおき 2005.11.15

日記での連載形式をとっておりましたが、移しました。
2006.06.08




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