この先の道は、やっぱり辛いものだと思うけど。 第7話『背中』 「んじゃ、いつもの通りにな」 メロが言って、バタン、と朝のお勤めに出かけてゆく。 私はそれを見送って、私の寝床となったソファにもたれるようにして、ペタリと座り込んだ。 (出て、行かなくてはいけない) 傷はもう癒えたといって良い。 いつまでも、ここにいるわけにはいかない。 そう思いながらも、私はそれを言い出せずにいる。 (…駄目だと分かっているのに) ここにいつまでも、匿われていていい筈がない。 宛てなどなくても、する事さえ見つからなくても。 ただ呼吸をする事さえも許されない私が望むことが、きっと生きるという願いだけでも大それているというはずなのに。 (…このままメロの傍にいたいと願うとは…) 温もりなど、覚えようと思わなかったのに。 優しさなど、感じずにいたのに。 生きるためにどんな悪意も、絶望もものともしなくなった心が、彼の与えてくれたあったかいモノに簡単に崩されそうになるとは。 日課の賛美歌が教会の方から廊下を伝ってニアを包むように響く。 (…明日、出ていこう。彼が私を嫌わない内に) 今でもけして好いてくれているワケでは無いけれど。疎ましく思って、メロの口から出て行けと言われる前に。 (そうしよう…) ぎゅっと胸元のシャツを握り締めて、決意する。 仕方ない。仕方の無いことなのだ。悪魔の私が、誰かの傍にいる事なんて出来るはずがない。 (どこか、誰もいないところに行って、森の中で暮らしていた時のように、ひっそりと暮らそう。…誰も呪わずに生きていけるように) 窓にそっと近づいた。 空はまだ寒そうな色をしていて、きっと息も白く、体も凍えてしまうのだろうけど。 「分かってる!」 メロのいつもの声が聞こえて、私を拾った裏口からぱっと飛び出す姿が映った。 タタタっと街を走り抜けていく後姿に、心がじわりと暖かくなった。 金の髪が黒い僧衣に映えて、綺麗だ。 寒空に踊るように駆けていく姿が、とても美しい。 外はやはり凍えるように寒いのだろうけど、彼の行く先には希望があるように思えた。 「メロ、有難う」 私は遠い彼の背中にポツリと呟いた。 その声がまるで届いたかのようなタイミングで、彼が振り返った。 窓の内の私を見つけて、口角をあげる。 私は少しだけ頭を傾けて、口許を緩めた。 Next second stage ………………………… …懺悔… ニアが見ているのはいつもメロの背中だという話。 メロは活動的だから、きっと院でもニアはメロの背中ばかり見ていたに違いない。 『次はLが出ます!』と宣言しておいて、お預けです。(苦笑) 多分次ぎも出てきません。 2006.04.05 水野やおき 日記での連載形式をとっておりましたが、移しました。 2006.06.08 …………………… [0]TOP-Mobile- |