明日、出てゆきます。
タイルを打つ水の音に掻き消されずに、その言葉は彼まで届いた。


第8話『挨拶』


「…そうか」
 彼は呟いて、私の髪に石鹸をつけて、再び泡立てた。
「メロ…気持ちよいです」
「オレは面倒だけどな」

 夕方、お勤めを終えて帰って来たメロが、風呂に入れてやると言い出したのは半時前。
 今までは、ニアの体調もあまりよくない事から、リスクを考えて、体を拭くだけにとどめていただが、そろそろ大丈夫だという事でメロが時間を見計らって、バスルームにニアを引っ張り込んだ。
「ほら、脱げ」
 こじんまりとしたシャワー室が続く共同バスルームの一つに押し込められて、彼はそう私に宣言する。
 彼の前で服を脱ぐのは、日常の一つのなっていたので、私はおぼつかない手で自分のシャツのボタンを外した。
「…何してんだ、下も脱げよ」
 上着を脱いでぽつんと立っている私に、メロはうざったげな顔で私に指示する。
「…え?下も、ですか?」
「当たり前だろ。じゃなきゃ濡れんだろ。服が」
 シャワーをヘッドを指されて、それを見つめる。
 どうやら、あそこから水が出てくるようだ。きっと蛇口と同じ原理なんだろうな、と覆って、私はズボンに手をかける。
 が。
「あの、メロ…」
「何だ」
「…あの。せめて扉の外に出て行って…貰えませんか?」
 私が視線を逸らせながらそう言うと、彼はふっと笑ってから残酷に早く脱げと催促した。
「もしも、だ。誰かが入ってきたときにオレが外に出てたらおかしいだろ。ここは一番奥だから、覗きに来るやつはいないから、人が二人入ってるなんて誰も思わない。よって、オレが入ってる体裁を整える為に、お前は今すぐ脱げ。んで、オレに水はかけんなよ。」
 無理な注文をつけてくる彼に、私は少しだけ渋い顔でそろりとズボンを脱ぐ。
 人と触れ合った事など無いから、羞恥心というものは覚えていなかったけれど、それでも彼の前で一人だけ全裸になる事は躊躇われる。
 しかし、好意で入浴の機会まで作ってくれている彼に対して、断っては悪いだろう。
 そう思って、背中を向けたまま、服を脱ぎ終わる。
 メロが脱いだ服を寄越せというので、渡して、コックを捻る。温かいお湯がぶわっと放射状に出て来て、私は思わず目を瞑った。
「うお!お前、捻り過ぎだ!」
 言って、メロが栓を閉める。
「…ったく。オレまで濡れちまったじゃねーか…」
「…びっくりしました。」
 彼が溜息を吐いて、濡れたまま突っ立ってる私の肩に手を置き、私はというと、ふるり、と頭を振る。彼は「お前は猫か」とうんざりした顔で溜息を吐いた。
「しかたねーから、髪、洗ってやる。下向いてろ。」
 手の甲で濡れた顔を拭っていると、溜息交じり、背後から頭を押し下げ、コックを捻る手が伸びてくる。
 ざあっと勢いよく降り出す雨のような水滴と、私の髪を撫でるように動く指に、ニアはきゅっと目を瞑る。
(時間が止まってしまえばいいと思う瞬間とは、こういう事をいうのでしょうか)
 触れる手が今まで関わって来た誰よりも、優しい。
 きっと、こんな手を持つ人は二度と現れないだろう。
 そう、思う。
「…メロ」
「…何だ」

「 …傷ももう、癒えました。
 私は、明日出てゆきます 」


Next second stage


…………………………
…懺悔…

行ったり来たりで、何か読みづらくなってしまって申し訳ないです。
一人称・三人称もごっちゃ混ぜになってますし…(汗)
しかし、ニア視点オンリーでよく話を書こうと思ったものだ、と今になって思います。
ムズカシイー!
誰が何といおうと、ニアメロ(ニア)です!(最後の()は…)
いや…ニアメロ…ですヨ…。
本誌のイメージのニアだとウチではこんな感じになります。
精神的に脆いというか。
2006.06.08



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