本能とは末恐ろしいものだ。


第10話『疑い』


 彼の部屋の掃除をして出て行こうとしていた。
 最後の最後。目を伏せて彼の部屋に別れを告げようと思った瞬間、ぞくりと背筋が泡だった。
 まさか、と思い、慌てて窓の傍の壁に背中を押しつけ、少しばかり曇った窓から道を見下ろす。
(包囲、されている…!)
 何故、と驚愕に心臓を警鐘のように早鐘打たせながら、少しでも落ち着かせるように喉をゆっくり上下させて動揺を嚥下させる。
 焦りや動揺は正常な判断を鈍らせる。いつでも冷静に。それだけがニアを生かす。
(何故、どうして…。これでは見つかってしまう…、)
 メロに迷惑がかかってしまう。
 その事実がニアの心臓を急きたてる。平常心を奪う。
(何故…どうして、今頃…)
 どうして見つかったのか。包囲網が少しずつ狭まっていたのだろうか。
 私がぐずぐずしている間に?
 しかし、タイミングが良すぎる。
(もしかして…)
 メロ?
 思った瞬間、ドクン、と一際大きく鼓動が跳ねた。
(…どうかしてる、メロを…疑うなんて…)
 メロは助けてくれた。でも、今まで裏切られなかった事なんて、あっただろうか。
 もしかしたら、何か理由があって、助けたのかもしれない。
 今日のこの日の為に。
(……何てこと、考えてるんですか…)
 拮抗する胸の内に、思わず目を背けたくなる。
 ぎゅっと手を握って、頭を振る。
 聖堂の方で声が聞こえた。
(そんな事、今はどうでもいいこと、今は逃げる事だけを…)
  思って、さっと身を翻すと今度は廊下を窺った。
  どこかから突破口を探さなければならない。
(北が一番人が少なそうですね…)
  感覚を澄ませて、廊下と、外の気配を探る。
 そっとメロの部屋の扉を開いた。
 頭だけ乗り出して、それからそろりと身を滑らせる。
 ゆっくり扉を閉めて、北へ続く廊下を慎重に進んでいた瞬間、
「!!!」
 背後から来た誰かに口を塞がれ、羽交い絞めにされ、息を呑んだ。


Next second stage


…………………………
…懺悔…

…懺悔…
無条件に信じれる人ってそういないと思って、こんな感じになりました。
メロを疑って御免なさい!
2006.08.16up




……………………
[0]TOP-Mobile-