「…本当に、すみませんでした…」
メロは赤く手形のついた頬に手を充て、ムスッとそっぽを向いている。
「あの…、介抱していただいていたと言う事が頭からすっ飛んでしまいまして…」
ジロっと鋭い視線がエルに向けられて、エルは小さく身を竦めた。
しかし、小さく唇を突き出す。
「でも、アナタだって悪いんですよ、メロ…。何もその…、」
「…別にそんなのじゃ欲情しねーから安心しろ」
「っよ、よくじょ…!」
もごもごと口の中でその先を紡ぎ出す事をためらっていたエルの、発せられる筈であった言葉の数段上の内容を、メロがさらりと告げて、エルはパクパクと金魚のように口を開閉させた。
「な、な、な…!!」
「?別に対した事じゃねぇだろ?」
悪魔は同時に色欲の権化でもある。メロだってそれなりに、色っぽい悪魔の姉ちゃんとそういう行為に及んでいる。
今更、特に何も思う事は無い。
「な…なんて事言うんですッ!!」
「あたっ!」
ばしっ!とメロの頭にお盆が振り下ろされた。
「〜〜〜っ!!」
(一度ならず二度までも、この女!!たっぷり不幸を与えて地獄に突き落とすぞ!)
「その!せっ、性行為とはっ、子供を成すための!神聖的な行為ですよ!?」
「………」
「それを…っ!ただの肉欲のようにっ…言うものでは、ありませんっ」
「…………」
真っ赤になりながら反論するエルを、メロは冷めた目で眺める。
(どこの敬虔なカトリックだ、こいつは)
今時、天使だってそんな事を心の底から言う奴は少ない。奴らのそれは建て前の教えであって、メロの知る所によると、裏ではかなり凄い事になっているらしい。
メロ達にしてみれば、そんなのは侮蔑の対象以外、他ならない。
それ故、道理を失った天使共の乱行で、近頃は人間あがりの天使が増加しているのだし。
メロがこんな所に来る羽目になったのだ。
「聞いているんですか、メロ!」
だから、そんな戯れ言など一蹴し、尚且つお盆で殴られた復讐をしても良かったのだが、本当に顔を赤くして訴えるエルに免じて諦める。
「あぁ、分かったよ。悪かった」
それに、今の自分にはそんな力なんて残っていない。羽を出し飛行する事さえ不可能なのだ。
まあ、押し倒す事くらいならこの身一つあれば出来る事なのだが、面倒臭いのでとりあえず、保留にしておいてやる。
「…本当にそう思ってるんでしょうね…」
エルは懐疑的に呟いたが、一つ息を吐いてそのまま自分の椅子に座った。
「…ココア、冷めますよ」
言って、エルが自分のカップに手をつけ、焼いたマシュマロを口に含んで幸せそうにこくこくと嚥下する。
「…、…旨い」
嘆息一つ、同じようにココアを口に含んだメロが呟くと、エルは「そうでしょう?」と、にこりと笑った。


Next second stage


…………………………
…ひとこと。…
人間あがり=天使や悪魔の血を持った元人間の子。(自分設定)
2006.02.01水野やおき(書いたのは)

日記での連載形式をとっておりましたが、移しました。
2006.06.19




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