「出かけるなら、鍵はポストの中に入れていて下さいね」 「分かった」 「では、行ってきます」 【悪魔の条件】 エルは久しぶりにウキウキと、学校迄の道のりを歩いて行った。 誰かが一緒にいる生活…というのは、近頃とんとご無沙汰だった。 中学生の時までは、ワタリが傍にいてくれたのだけれど。 高校に入って、三年目。 あの一人ではだだっ広いと感じてしまうマンションの一室が、今朝は華やいで見えた。 まあ華やかさの一部は、あの男の容姿にも関係する事であるのかもしれないけれど。 (本家の方々にバレたら、彼らは何て言うでしょうか。…男を連れ込んで!と大層お怒りになられるのでしょうね) エルはその唇の端に、小さく笑みを刻む。 (だからと言って、女の人と遊ぶ事も家に泊める事も出来ないのだから、嫌になっちゃいますよ) 校内でも、仲の良い人間は作れない。 なんとも面白みの無い人生だと思う。 (…メロ。面白い方を拾ったものです。友達になれたら、いいですね) 「竜崎ー!かいちょー!」 背後から声がして、エルは朝の寝ぼけた感じの彼の顔を思い出し、緩めていた口許をさっと引き締めた。 「…何ですか、松田さん」 「白鳥学園の女の子との合コンが決まりました〜♪」 「……」 喜色満面といった笑みで、今にも空を飛びそうに浮かれている松田に、エルは白い視線を投げる。 「会長も参加して下さいね!!可愛い子沢山参加しますから♪もしかしたらその日の内に…むふふ…」 「松田さん」 「最近の良家の子女は随分とガードが緩いそうでして!」 「松田!」 低く、強く。エルは松田に呼びかける。 「はいっ!」 そこで、やっと松田は我に返って背筋を伸ばした。 「何度言っても理解しない頭ですね。豆腐でも詰まってるんですか?あ、豆腐に失礼な事をいいました。まあ、そんな事はどうでもいいですが、私はそういう話は大っ嫌いなんですと再三言って来ました。ですから今日は1日、アナタの顔は見たくありません。半径3メートル以内に近寄らないで下さい」 言い切って、エルは足早に松田から離れる。 年頃の男ならば、それで当然なのかもしれないが、エルにはそれがどうにも我慢出来ない。 「会長〜!会長目当ての女の子も多いんですから、参加して下さいよー!」 背後から大声で叫ぶ松田をエルは渋面を刻んで振り返った。 「それ以上言ったら蹴り殺します」 それを異様に嫌うのは、女の身でありながら、男として生きなければならないからかもしれない…とエルは思った。 Next second stage ………………………… …ひとこと。… 松田登場。彼は学園の書記。エルは生徒会長なのでお互い面識があります。 2006.02.02水野やおき update2006.07.01 …………………… [0]TOP-Mobile- |