「…良かった!」
心配しました。その声に、メロは軽く目を見開いた。


【悪魔の条件】


「それじゃ、これはオレのだよな?」
メロは路上で男にそう問いかける。
「はい、アナタのものです…」
サングラスの下のメロの虹彩は、猫のように縦長に開かれていて、そこから妙な力が滲み出していた。
メロは満足そうに口角を上げて、じゃあな、とバイクに跨る。
エルに街の周囲の事を聞いてから少し街を観察した。今はもう大体の事は分かるようになった。
元々頭の回転は良い方なのだ。
それに4日目にして、ほんの僅かだが力が戻って来た。
暗示能力だけしか今は使えないが、それでも飛躍的に楽になったと思う。
この分ならば、近い内に全ての能力が戻るだろう。
「んじゃな」
言って、メロは今し方復活したばかりの暗示能力によって頂戴したバイクに跨る。
「おっと」
アクセルを回し過ぎて、一瞬驚くが、次の瞬間には安定させて走り出す。
「ははっ、結構面白れーじゃん」


とりあえず、目をつけた場所を走り回る。
エルの通う学校もメロが目をつけた中の一つだったが、ろくに調べもせずに的を絞って、違っていたらコトだ。検討違いでした、では済まない。
「…しかし…、どれも強い天使では無い…みたいだな…」
これは、どこか違う場所かもしれない、と推定する。
もしかしたら日本ですら無いのか…?
過去の事例として、伝え聞かされた強い天使が降臨した場所の話は、メロも知っている。
今の世界で、メロがいる付近でいえば一つか二つ程度。
しかし、ニアの事情というのは天界でも不明な事が多く、親に当たる天使も本当に不明なのだ。だから、メロすら知っている強い力を持った天使が降臨した場所など、関係ないに違いないが、可能性がゼロでは無い限り、闇雲に探すよりも関連性がありそうな場所に赴いた方が賢いというものだろう。
だったら力が戻り次第に、次にどこへ行くかも今から把握しておかないといけない…
「…!」
そこまで思考が及んだ時に、メロの背筋をゾクリと這わせる気配が爆発した。
「…んなっ!?こんな時によぉ!!」
どこかで天使と悪魔が戦っている気配を感じた。
最初は無視しようかとも思ったが、もしかしたら情報を得るチャンスかもしれない。
まだ産まれていないメロが出会うのは難があるが、バレなきゃいいのだ。バレなければ。
どうやら、この接戦は僅差でメロの属する悪魔の方が不利なようだ。
「…だけどなぁ…今のオレには何も出来ないしなぁ…」
まあ、駄目で元々。
メロはバイクを駆り出した。


メロは天使・悪魔の両手の張った結界をやすやすとくぐり抜ける。
でっかいドンパチを人間界で素のまま出来る筈がない。それだけは両者の暗黙の了解だった。
「…あそこか…!」
空中で火花が散るのが見える。
「あれは…」
仲間側ではあるが、いけ好かないリンド・L・テイラー。相手は千年後には4大天使の奈南川。
「…あー。」
テイラーと話すのは嫌だなあ、と思う。
しかし、イケ好かないながらも負けて貰ってはメロが困る。
「…ッ、悪魔の癖に仲が良いようだなッ!自分が不利だからと言って仲間を呼んだな?」
「!」
流石、未来は4大天使、とメロは眉を潜めた。今のメロには力がない。つまり悪魔である波動も微々たるもの。それを感じ取るなど、ましてやメロは今細心の注意を払って気配を消しているというのに、メロは奈南川の力の片鱗を窺い苦く思う。
しかし、どうにかして(暗示能力を行使して人間を結界内に引っ張り入れれば天使は攻撃をやめるのでは無いか…とか)戦闘を止めさせようと思ったのだが。
(最小限に気配絶ってたのに何てヤツだ…)
小さく舌打ちして、どうするかを考える。
「私は仲間など呼んだ覚えなど無いッ!!」
テイラーが吠えて、その手から業火が放たれる。
(安易に近寄るべきじゃ無かったか…)
今のメロには力を貸すどころか、自分の身を守る術さえ無い。
「はっ!そんな詭弁聴き飽きたっ…隠れるのは止めて堂々と出て来たらどうだ?!」
テイラーの、奈南川の声が交差する。
最後に自分へと呼びかけられて、メロは嘆息を漏らす。
「…よ「よく分かりましたね」」
ならばせめて堂々と。そう思って張り上げかけた声に、落ち着いた声が被さった。
「!」
「…本当に、通りかかっただけ、なんですけどね…。なんなら、このまま通り過ぎても構いませんよ。どうします?」
「「アイバー!!」」
(アイバー!?)
今はどこに行ったかも分から無いと言われいる男の名だった。
悪魔としては酔狂な、しかし実力はかなり高いと呼ばれる男。
たまに、聞く名前だった。
『アイバーがいれば』
仲間にも父親であるロッドも呟いていた…
(アイツが!?)
ただの優男にも見えるが、天使や悪魔の力は見た目では計れない。
「私も随分有名になったものですね」
ビルの屋上に腰かけたまま、アイバーが優雅に微笑む。
「…下がれ!アイバー!!貴様にの手を借りる謂われは無い!!」
「面白い!かのアイバーを仕留めたとすれば、私の名前ももっと広がるだろう!!」
両者が叫び、アイバーは肩を竦めた。
「…困りましたね。…それでは間を取るとしますか。二人共、仲良く眠って頂こう!!」
緩やかな語調が、最後の最後で強く叩き出された。
同時に奈南川、テイラーの動きが止まる。
「…くっ!」
「カッ…ぁ!」
(…っ!空間圧縮!)
ガクリと、メロはバイクから転がり落ちるようにして膝を折った。
一定の空間を強烈に圧縮する技の範囲内にメロも入っていた。
軋む骨の音を聞きながら、脂汗を滴らせる。
(…くそっ!)
息が出来ない。体が潰れそうだ。
(クソッタレがっ!!)
意識を強く、強く持つ。割れそうな頭の、白濁した意識が少しだけ回復した。
「…アイ…バー!」
「おや、流石。でも、起きてて貰うと迷惑なので…。ああ、大丈夫ですよ、結果は私が責任持って維持しますから。…まあ、心配なのはテイラーくんが死なないかどうか…ですけどね」
「…貴…様っ」
一層酷薄に笑いアイバーが手を軽く振った。
「お休みなさい」
ドッ…と凄まじい圧力が全身に掛かった。ゴキン!とどこかの骨が砕けたのが分かる。
メロは大きく目をかっ開いて、押し潰そうとする圧力に逆らった。頭の端でテイラーは瀕死状態だな…との予測がチラリと過ぎる。
「かっ…はっ…!」
次の瞬間、死んだのかと思うくらいに体が軽くなった。解放されたのだと分かった途端にメロはアスファルトに倒れ臥した。
(アバラが3本は軽くイった…な)
「…?誰かいるのかい?」
メロの微かな声が聞こえたのか、アイバーが独りごちる。
「…っ…ィバー…!こっち、だ…!」
固く拳を握って、顔を起こす。
直ぐにアイバーがメロの前に降りたった。
肩には奈南川とテイラーが担がれている。
「…驚いた…誰です?」
「…お前の、仲間だ。名前は事情があって明かせない…」
ざんばらの髪の隙間から、メロは睨むようにアイバーを見上げる。
「…驚いた…」
アイバーはぽかんと口を開けて、メロを見下ろす。
「私はこれ程力を持った悪魔の容姿すら聞いた事が…無い…。何者ですか…と、愚問ですか。…でも非常に興味がある」
「…話が早くて助かる。特務だ。聞きたい事がある…。交換に教えてやれるとすれば、オレはロッド縁のもんだというくらいだ。…満足か?」
「大王の縁…つまり王族…。…まあ、満足とは言えませんが、詮索は無しにしておきますよ。…聞きたい事とは?」
「こっちに来ている天使の情報。しかも直系、それかそれに準ずる能力の持ち主。」
痛みを堪え絞り出した言葉に、アイバーは眉を上げて大事ですね、と答えた。


「…ッ…、治りが遅い…っ」
全身に力を入れて、痛みに耐える。一旦危険が去れば、体は強烈に痛みを訴える。
エルのいるマンションへとバイクで乗りつけて、エンジンを切る。
詰問されるのを避けたくて、暗示能力を使いたいと思ったが、治療にエネルギーは回されていてそうは行かなそうだ。
ともかく、広いエントランスに体を引きずるようにして入り、エルのいる部屋のインターフォンを押した。
「…?」
無音のまま、待てど返事が無い。
「…」
もう、夜も遅い。
出掛けているとは思え無いが…。
(…あー…チクショウ…)
こんな事ならアイバーにどこか転がれる所を用意して貰えば良かった。
(…仕方ねぇ)
回復は一段と遅れるかもしれないが、近所の住人に暗示をかけて押し入るしか無い。
メロの指が他の住人の部屋のインターフォンを押そうとした、その時だった。
「メロっ!!」
今にも泣き出しそうな声が聞こえて、ゆっくり振り返る。
「…良かった!心配しました。…どこかで、迷ったのかと…、メロっ?!」
走り回ったのか、エルは全身に汗をかいていて、息も上がっていた。
その顔を見て、メロはずるずると座り込んだ。


Next second stage


…………………………
…ひとこと。…
…長いよ!
アイバー登場!奈南川とテイラーも結構好きなんです。水野さん(笑)
2006.02.05水野やおき
update2006.07.23




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