彼を相手にすると
今まで眠っていた何かが、息を吹き返す。


【悪魔の条件】


隣ですーすーと安らかな寝息が聞こえた。
とても理不尽な気持ちに駆られる。
本人は親切心なのかもしれなかったが、エルにとっては逆に迷惑な結果となった。
どうしても、眠れない。
「…」
エルはもぞもぞと居心地悪げに体を捩る。
他人がこんなに近くにいる事なんて一度もなかった。
心臓がドキドキする。
メロの熱が移ったかのように、体が熱い。
先程メロが目覚めてから、体を拭いて、服を着替えて、それからベットの使用権についての話になった。
エルは病人をソファで寝かせる趣味などないし、メロはメロで宿主をソファで寝かせるのを拒んだ。
お互いがお互いの主張を譲らずにしばし経った時に、メロがこう言った結果、現在に至るのだが、メロの言葉とは「じゃあ、一緒に寝りゃいいじゃん」だった。
エルは勿論拒んだが、あっけらかんと、だってどっちも譲らねーんだったら、これしかねーだろ、とメロはエルの手を強引に引っ張ってベットに押し込んだ。
もしも、顛末だけ聞いたとするならば、色っぽい話だと思うかもしれないが、実際そんなものは一欠片さえもなく、本当にメロはあっけらかんと言ったものだ。

他人がこれほど近くにいた事は、エルの経験上一度たりとも無い。
ごそりとメロを起こさないように身動ぎしながら、エルは思いを馳せる。
エルを一番理解して愛してくれているワタリとて、こんな風に一緒のベットで寝る事なんて無かった。
エルは本家待望の子供は男の子では無く、女の子で、そして血筋としきたりと見栄にこだわる家に産まれた。
しきたりにこだわるのならば、エルはそのまま女性として扱われた筈だが、どうやら見栄が勝ったらしい。社交界で「ご令嬢ですか」と言われる事すら彼らには耐えられなかったのだ。何ともくだらない見栄だと思うが、それが竜崎家なのだ。どうしようも無い。
本家は、エルの両親は、エルが幼い頃、親しい人物を作らないようにする事に躍起になっていた。今はエル自身が本家の過剰な介入が面倒臭くて作ろうとしていない。
だから、隣にいたのが女性だったしても、男性だったとしても、きっとエルはどきどきしただろうと思う。
どきまぎして眠れないに違いない。


Next second stage


…………………………
…ひとこと。…
中々進展しない関係というものが大好きです(笑)
2006.06.20 水野やおき
update.2006.10.09




……………………
[0]TOP-Mobile-