ピエロを操るのは、神の手か。
 死神の手か。自分の手か。

 そんな事、誰にもわからない。


【残酷ピエロは3度啼く】



「おい、粧裕。お前が一番楽しんでたな」
「あはは!いいじゃん。お兄ちゃんの幸せは、私の幸せ!私の幸せは、私の幸せだもん」
「まったく」
「しかし、家族で出かけるのも久しぶりだ。」
「そうですねぇ。今は犯罪も少ないですし、アナタももう少し休みが取れるでしょう?もっと家族旅行とか、行きましょうよ」
「さんせーい!」
「父さん、母さん…僕もう大学生だよ…」
「あの、すみません」
「はい?」
 夕暮れの道端。駅から歩いて帰宅する家族の横に黒塗りのリムジンが一台止まった。
「道をお聞きしたいのですが」
「いいですよ。どこですか?」
 開いたウィンドウから、黒髪の青年が声をかける。
それに、顔は少しまだ幼さを残しているブラウンの髪の青年が、気さくに返事をした。
「では、帝国ホテルへと続く道を教えてくださいますか?」
「ああ、そればら、この道をまっすぐ行って、それから大きな信号を右。そうしたら国道に出ますから、そこからはきっと分かると思いますよ」
「そう、有難うございます。…家族旅行の帰りですか?とても、幸せそうですね」
 黒髪の青年がまるで自分の事のように、幸せそうに微笑むので、思わず彼はつられて微笑む。
「ええ、幸せです」
「それは良かった。それでは、色々と有難うございました、月くん」
「いえ。当然の…、え?」
 聞き返した時には、ウィンドウは閉まっていて、ゆっくりとリムジンは進んでしまっている。
「月、今のは知り合いか?」
 父がリムジンを目で追いながら、問うて来る。
「いや…知らない…」
「でも、お兄ちゃんの名前知ってたよねぇ?まあ、お兄ちゃん全国大会で優勝とか色々と有名だから…ぎゃっ!何で泣いてんの!?」
 妹の声を聞いて、初めて月は自分が泣いているという事に気付いた。
「…分からない。分からない…けど」
 古い、古い、記憶のような気がする。
「誰かを犠牲にした幸せは…幸せじゃないんだ。そう言われた気がする…」
「ぇえ?」


黒塗りのリムジン。
密やかに声がする。
『幸せそうだったな、月』
「ええ、リューク。…貴方も退屈じゃないでしょう?」
『そうだな。月みたいな人間も初めてだったが…。こんなデスノートの使い方するやつも初めてだ。これもまた面白、だな』
「月くんのお陰です。今はもう無い未来の『これ』に書かれた犯罪者の名前を辿れば、先回り出来る。この目があれば、少しでも多くの人を助けることが出来る」
 黒いその辺にもありそうなノートを、Lは優しく慈しむように、撫でる。
 それを見ながら、死神はくつくつと喉を震わせて笑った。
『…それでお前は幸せなのか?』
「ええ。私が義父を殺した事は変わらない。月くんが私を殺した犯罪者を殺したのも、変わらない。…けれど、償いは出来る。月くんが幸せならば、私も幸せです。」
 不幸は続けば続く程、不幸になってゆく。
 人々の気持ち次第でそれは変わってゆく。
 連鎖、という言葉がある。
 笑う角には福来る、そんな言葉がある。
 ならば、沢山の人が泣かないようにする事。
 犯罪者を犯す事になる人も、被害にあう事になる人も。
 笑顔でいられる時間が続きさえすれば。
 それが幸せに繋がると、Lは信じている。
 彼の目指した世界があると、信じている。
 残酷で悲しいピエロはもう、いない。
 ピエロが泣くことも、もう、ない。

「とても、幸せです」


おわり。

……………………
[0]TOP-Mobile-