まさか。
 そんな馬鹿な。
 そう思って、Lはニアとメロから逮捕直前に起きたハプニングについて聞き出した。


【残酷ピエロを幾度も殺し】

「月をまたチームに入れてやらなかったのか?」
 本日付で比較的大きな規模の犯罪組織をLの指揮の元、逮捕する予定だった。
 そのチームに月を入れなかった事をリュークに尋ねられて、Lは「ええ」と頷いて、休憩にとワタリが用意してくれた紅茶に角砂糖を投入しながら答える。
「これでいいのです。私の確認したこの目の力を信じるならば…、彼の寿命は長い。私が世界に関わる事で多少の誤差はあるかもしれませんが、短くなる事はそう無いでしょう」
 紅茶というよりも、砂糖水になりかけているティーカップの中身をLはずずっと音を立てて啜ってから小さく微笑んで告げた。
「少なくとも、…デスノートの所持者である私にさえ関らなければ」
 それから、リュークへのおやつであるリンゴにLも手を伸ばした。かしゅっと齧っると、甘く、少しだけ酸っぱい爽やかな酸味が咥内を満たす。
「ふ〜ん。でもアイツは自信家だからすげー怒るんじゃないのか?」
「それは…容易に想像できますね」
 くすりとLは笑う。
「でも、関わらない方が彼の身の為です。未解決の事件は他にもあります。そちらだって容易に事が解決するわけではないですから、彼にはこれからもそちらに関わっていただきますよ」
 以前、どうしても確認したくて、大学生になったばかりの月に、偶然を装って会いに行った。刑事長である総一郎に似た目をしていた。確かに月は憤るだろうが、こちらが隙を与えない限り、キラであった時のような無茶をするとは思えない。
「それに、今回の件はもうそろそろ終わる筈です。」
 リュークに告げて、Lは資料として眺めるだけの、少しずつ取り戻していくほんの一時だけの面影を思い出して目を閉じた。
 懐かしくて、切ない思い出だ。
 隣にいる死神以外には共有する相手もいない今、それは果てしなく遠い。
 それも、Lが所有権を手放してしまえば、元から存在もしなかったかのように消えさるだろう。
 PiPi PiPi PiPi PiPi…
 しばしの間、思い出に浸っていた耳に電子音が掠めて、Lは通信用のボタンを素早く操作した。
「何かありましたか」
「L…」
 普通の通信では一度ワタリを通してからLの元に転送されるようになっている。直通で通じるのは、ワタリを覗いて、ニアかメロの両名のみ。その二人でさえ、普段はワタリを通してからLに繋ぐようにさせている。
 そのニアが戸惑いの感じさせる沈黙を措いた事に、Lは嫌な予感を覚えた。。
「L…信じ難い事ですがー…。捜査員数名、それから組織の内の犯人数名が死亡しました。突然、同時刻にです」
 ドクン、と心臓が一つ大きな音を立てた。
「死因は…?」
「例外なく、心臓麻痺」
 まさか、そんな。
「一番の標的は行方知れずです…私もメロも現在調査中ですが、どうしますか、L」
 ニアの言葉も、頭に届かない。
 Lは麻痺したような思考と体をもてあまして天井を見上げた。
 このような例を以前に、聞いた。
「…まさか」
「L?」
「…まさか、そんな」
 一度ある事は二度ある。
 一冊あるノートが二冊に増えてもおかしくはない。
 死神がもう一人降りてきていたとしても、おかしくはない。
 何度、キラの話を彼に聞かされた?

 Lの前で、心臓麻痺で犯人が崩れ落ちた。

 それはデスノート以外の殺し方では有り得ない。

 背後でリュークが笑う声した。


////To be continiued/////

2006.08.31


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