僕にとっては、朗報だ、
Lの手がけた事件が失敗したと聞いて、そう思った。


【残酷ピエロを幾度も殺し】


 それを月が聞いたのは、先輩である刑事松田がトイレで漏らした一言からだった。
「え?原因不明の突然死?」
「…そう。」
 暗い顔で、松田が小さく溜息を吐く。
 亡くなった松田の同期の警官は、Lに抜擢され、どうやら裏の組織に潜り込んでいたらしい。
 そして、いざ逮捕という数時間前、謎の突然死で倒れたというのだ。
 勿論諫言令は敷かれたが、人の口には扉は立てられない。このように、普通の人間の口からあっという間に広がる事なのだ。
「…片桐さんの他にも、犠牲者が?」
「うん、そうみたいなんだよ…。組織にばれて、殺されたわけじゃなくて、突然の心臓麻痺なんだって…。あんな死に方、するやつじゃなかったのに…」
 言葉から察するに、絶命の瞬間は悲惨なものだったらしい。月は少しだけ瞼を伏せ、出来るだけ沈痛な面持ちで「元気を出してください」と松田に告げた。
「…ありがと、月くん」
「いえ、僕はあまり片桐さんとは面識が無かったけど、松田さんの辛い気持ちは分かります。…僕が手向けにきっと原因を調べ上げて来ますよ」
「え?」
「優秀な人材が倒れて、きっとLも困っていると思うんです。そんな不自然な死に方、重大な、解決し辛い原因が、何かあるに違いないんです。僕だって仇をとりたいですから、立候補してみようと思って。」
「…月くん…」
「僕が関わった事件は、無事に解決できましたし、何の問題もないはずですから」
 安心させるように微笑んでから、情けない顔になってる松田の肩を叩いて、先に廊下に出た。
(しめた…!!)
 思わず顔がにやけてしまわないように気をつけながら、父であり、局長でもある総一郎の部屋へと赴く。
「局長…!」
 ノックもせずに、部屋に飛び込むと、長官・次長らの顔が一斉にこちらに向いた。
「…月…!」
 驚いたような表情の間に、小さなパソコンが見えた。
『…鍵はどうしました』
「す、すまない、N。ちゃんと掛けた筈なのだが…。」
 無機質な合成音に、長官のうろたえた声が重なった。
『申し訳ありませんが、今は取り込み中です。用なら後にして下さい』
「いえ、本当の用は貴方がたにあるのです。…僕をこの捜査に加えて下さい!」
『…貴方を…?』
 怪訝そうな間の後に、月は「ええ」と頷きながら言葉を募る。
「捜査員が原因不明の死因で亡くなったと聞きました。僕の密かに調べる所によると、それに関わった犯罪者数名も謎の心臓麻痺だそうですね。そして、僕の見立てによると、その他の事件で捕まった犯罪者にも同一の心臓麻痺で死んでいる。…そして、それの情報規制を敷いたのはN、貴方達ではないでしょうか」
『…』
「僕は、どんな事件にも手を抜いた事はありませんし、失敗した事もない。必ず戦力になると明言できます。是非、僕を捜査に加えていただきたい」
『…名は何と?』
「月…、夜神月と」
『……』
 考え込むような沈黙に、月は真剣な顔を取り繕ってモニターを眺めた。
 ここまでくれば、こっちのものだ。Lでない者にまで、マークされてるとは考えられない。今の沈黙は月の経歴を調べているものであろうし、ならば信用を勝ち得る自信は十分にある。
「あの、N。父親の私が言うのも何だが、とても優秀な警察官だ。先日もLの薦めでA地区通り魔事件の指揮官を努め、無事果たした」
『…、いいでしょう。』
 了承の言葉を聞いた瞬間、月は心内でやった!と拳を握った。しかし、次の瞬間から、笑いを堪えた顔が歪みそうになるのを堪えなければならなかった。

『ただし、失敗などない貴方は上官の部屋に入る前の最低限の礼儀を知る必要があるみたいですけどね』


////To be continiued/////

2006.08.31


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