僕は時折夢を見る。

 それは恐らく、イギリスウィンチェスターでの夢だ。
 まるで、タイムスリップをしたかのような石細工の建物に囲まれ、濃い霧がかかった迷路を僕はいつも彷徨う。
 どれだけ頑張っても、霧から抜けることはなく、苛立ちの中で何かを探していた。
「月くん」
 と声がする。
 どこかで聞いた声だが、思いだせない。
「月くん」
 また、誰かが僕を呼んだ。


【残酷ピエロを幾度も殺し】


「……っ」
 ビクリと痙攣を起こしたように体が震えた。
 頭上で響く目覚ましの音が不愉快に頭に響いている。
「…」
 それを仏頂面で止めて、月は小さく溜息をついた。
 最近、こんな夢ばかりだ。
 日増しに不鮮明な夢が増えていて、目覚ましがならなくとも時間通りに起きられる月としては、屈辱感を感じてしまう。
(…まあ、目覚ましというより…、晴れない霧の方が不愉快だが…)
 そのままのそりと起き上がり、コーヒーとトーストの用意をし、顔を洗って着替えてからキッチンへと戻る。丁度トースターから飛び出したパンを皿に移し、朝刊を広げTVをつけた。
 今朝のニュースが、轢き逃げ犯が心臓麻痺を起こし、路上で倒れたというニュースを報道した。
(規制を解いたのか…)
 同様に数箇所で同じような事件が起きている事が報道されて、月は腕を組む。
(偶然じゃありえない。何か意図された犯行だと思うが…出来る、か?)
 しかも、故意に犯罪者ばかりを狙って、だ。その上、既に収容された犯罪者まで含まれている。どんなに多くの精鋭部隊を揃えたところで、物理的に不可能に近い。
(Lがしくじったあの事件、謎の死を遂げた捜査員や犯罪者達の死因と同じ…心臓麻痺、ね)
 やはり解決の糸口がここだ、と月は新聞を折り畳み、TVを切ってから席を立った。
(僕が考えるに、ここまで来ればおそらく少数人の犯行。むしろ…個人が何らか特定の洗脳プログラムを流したと考えた方がまだマシか?…まぁ、もしもこれが個人の犯行で、目的が悪の殲滅だとしたら――…)
 最後に一口ブラックコーヒーを飲み込んだ。
 苦い。
(下っ端をヤった所で、頭を逃してたんじゃ意味が無いな)


「以上の資料から犯行に及んだのは、大きなグループではなく、少数人か単独犯。単独犯の線が強いと思います。そして、犯人は日本に潜伏中と推定されます。どうですか?N」
 会議の最中、Nからの回線が繋がり、他の捜査員が報告を終えたと同時に月はきっぱりとNに向かって発言した。
「…何を言う!主犯の者が日本に潜伏中だというのならまだ理解は出来るが、その上単独犯?!」
 ざわり、と室内が騒がしくなるのを無視し、月はNに向かって立て水の如く滔々と説明を続けた。。
「実はもうL側も気付いているのではないですか?どう見ても、個人が出来うる範囲での犯罪ではありません。ここまで大規模な殺人で、まったくといい程手がかりがない。もし、大勢の人間が何らかの殺しの手段、細菌や、洗脳プログラムなどを流していたとしても、必ず証拠は残ります。そしてこれには、それが無い。だとしたら、もう殺害された犯罪者、それに直接手をかけずに殺したと思った方がよさそうです。根拠の一つとして、顔と名前が報道された人物のみ死んでいるという事、そして警察が秘密裏に捕まえた人物は未だ死んでいないという事。そこから導きだされる答えは、この大量殺人犯が殺しをするのには、名前と顔が必要だという事です。そのような能力を持った人間がいきなり多発する筈もない。これが第一の理由です。そして第二の根拠は死亡推定時刻の時間帯。日本時間でいう夜半にかけて行われているという事にも注目すべきです。新に報道された犯罪者の名前があがった途端、9時から12時にかけての間のみ、即座に死亡しています。犯人が複数人であるならこれはおかしい。そして、これが犯人が日本にいると思われる理由です」
「なる程…」
 同じ室内の捜査員が確かに、と頷くのを見ながら、月はモニターに向かって笑いかけた。
「どうです?N。どこかおかしい所があったでしょうか」
『…いえ』
「Lと警察は協力関係を取っていますし、その指揮下にあると言ってもいいですが、一つ私に提案があります」
 皆の注目が集まるのを意にも介さず、月はにこりと微笑みかけた。
「私に権限を与えていただけるのなら、大量殺人犯、通称キラの居所を明かしてみせます」


////To be continiued/////

2006.08.31


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