彼に別れを告げて何年になると思う?
 それなのに、まるで昨日の事のようなのだ。


【残酷ピエロを幾度も殺し】


「初めまして、Lです」
 月がLを見て驚いたような顔をしたので、やはり覚えていたかと、Lは少しだけ瞼を伏せた。
「…あの時の…」
「何ですか?とにかく早く入って下さい」
 だがすぐに平坦な口調で言い捨てて、Lはさっさと月に背中を向けた。
 もう、Lが初めて出逢った時の月では無い。変わったのは月なのに、Lだけが変わってしまったかのような錯覚を覚える。
 深い感傷を切り捨てようと、なるべく顔を見ずに椅子に腰掛けた。ちょこん、といつものスタイルで座り、ワタリが用意してくれた紅茶をティーカップに注ぎながら、やはり何時かの出来事を思いだしてしまう。
(霧の深い寒い日だった)
「どうぞ」
まだ、入り口の所で固まっていた月を椅子に座るように促して、Lは月のティーカップに砂糖一杯分の蜂蜜を垂らした。自分には大量の角砂糖を投入して、スプーンでかき混ぜる。
「……」
 強張った表情の月に、Lは視線を合わさず、「今日来ていただいたのは」と切り込んだ。
「他でもない、夜神さんのこの後の事です。もし、宜しかったら私の元でキラを追っていただけないでしょうか」
 カチャカチャをスプーンを鳴らして砂糖を溶かしてから、くいっとカップを傾けた。
 口の中に甘さが広がる。
「…何の魂胆だ?」
 それとは対照的な苦虫を噛み潰したかのような表情で、月が呟いた。
「魂胆とは聞こえが悪いですね」
「じゃあ、何の裏も無いというのか?」
「裏とは?」
 トゲトゲしい物言いに、Lはチラリと黒い瞳で月を見つめる。
「…今までずっと僕を遠ざけて来ただろう。僕がまだ高校生の時に偵察までしておきながら」
「何の事です?」
 本当に分からないという表情を作り、頭を傾げる。月はそれに憤懣遣る瀬無いといった体で睨みつけてきた。
「しらばっくれるな。僕に『幸せですか』と聞いて来た事があっただろう。僕の名前だって知っていた」
「…もしかしたら、そのような事もあったかもしれませんね。以前にそういう事を何人かに聞いてみた事があります」
「例えそれが偶然だとしても、僕が何度も志願してもそれを突っぱねてきた、それをどう言い訳する。何かの意図があるとしか思えない」
「さぁ?それは毎回事情というものがありますから。前回貴方を指揮官に抜擢したのは私ですよ?」
「それは厄介払いだろう?…今回だって、僕がNの指揮下に入らなければ外していたんじゃないか…?」
「何の理由でそんな事をするというのです?」
 少しずつ低くなる声にLはさらりと言ってのける。
 理由はある。だが、その理由を月は永遠に知ることは無いだろう。ならば無いも同然だ。
 確信の為か、余裕の表情のLに、月は眉間の皺を深くしながら押し出すように呟いた。
「………僕が嫌いだかじゃないのか。例えば、僕の才能に嫉妬して、Lを越されると思ったからだとか。今さら僕を呼んだのは、僕が失敗をしたからそれで安心したのだとか」
「………は?」
 思わず素でぽかんとしてしまった。それを見た月の顔にぱっと朱が走る。
「…そんな事思ってたんですか?」
「違うのか…」
「えぇ。ただの思い過ごしですよ。そんな悪意などありません」
 偲び笑いながら「本当にプライドが高いですね」と月を見遣った。
 気まずさを隠す為に憮然とした表情の月がチラリといくばくかの疑いの視線を投げて来たので、「Nに聞きましたよ」と笑ってやった。
「…そうか、…そうか…」
「…では、私の元に来て下さいますね?」
 月は逡巡した後「ああ」と呟いて初めてカップに口をつけ、一息ついて「美味しい」と呟いた。


////To be continiued/////

2006.08.31


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