多分、それまでの僕はLの事を憎んでいたのだと思う。
 嫉妬というほど、可愛げのあるものでは無かったはずだ。


【残酷ピエロを幾度も殺し】


「何故」
「くどいですよ、夜神くん。キラが顔だけで裁けるようになった事をもうお忘れですか?」
「分かってる。だけど、多少の危険を冒さずに事件が究明される筈がない」
「今、高田に近づく事は多少の危険では済みません。もうイチかバチかの賭け状態です。そんなの愚か者のする事ですよ」
「何!?僕が愚か者だと!」
 Lの言い方はいつでも月の心を抉るような言い方をしてくる。ともすると、やはり月に悪意を持っているのではないかと思う程。
「命を粗末にする、それを愚か者といわずに何というのです?馬鹿者ですか?それとも考え無しとでも?」
「…お前っ!!!」
「事実を言ったまでです。そう一々興奮しないで下さい。みっともない」
「なっ…!…!……っ…底意地が悪いな、竜崎は…」
 これ以上の暴言を吐かせない為にも、湧き上がる苛立ちを飲み込んで、努めて冷静に皮肉を口に乗せた。
「冷血漢なんじゃないのか?ぱっと見た目も病的だしね。怪我をすれば血が流れるのかとすら思うよ」
「その通りかもしれませんね。では、こちらの資料に目を通してください」
「……!」
 よくもこうぬけぬけと。月はこの数日で絶対血圧が上がっていると思いながら、Lの差し出す資料を手に取る。
「…この作業に意味が無いとは言わない。だけどね、竜崎。僕は何もなんの勝算もなく言ってるワケじゃないんだ。何故なら」
「夜神くんは高田と付き合っていた…ですね?」
「…。知っていて反対しているのか」
「勿論です。高田の事はすぐに調べましたから。確かに夜神くんが声をかければ会ってくれるかもしれません。もしかしたら、キラに関する情報を提供してくれるかも。けれど、私は高田がそれ程多くの事を知っているとは思えませんがね」
 月との会話自体が捜査の邪魔であると言わんばかりに、一瞬たりとも資料から目を離さぬLの姿を月は舌打ちしたい気分で眺めた。
(何だって僕はコイツに振り回されてばかりなんだ…!)
 常にLは月の思惑を突っぱねて来る。その癖、時折気まぐれに笑ってみせたりするものだから、月はLを憎みきれない。
(特に、僕の中に残る不思議な感傷が原因なんだ…)
 初めて会った時、月は胸に迫り来るような感傷を覚えた。そして、交わしたはずの無い言葉に涙した。
 その不思議な体験の相手がこいつのはずがない、と月は強く意識する。いつ、どこで、そんな体験などした事は無いが、もし前世の記憶だとしても、こんな厭味ったらしいLが相手のはずがない。
 それを努めて意識してから、月は真剣な顔でLへの提案を続ける。
「それでも、情報があるだけマシだろう…」
「ばれたら、彼女が真っ先に殺されますよ。それともただ純粋に高田に逢いたいと?大学時代に付き合っていた彼女ですから、まだ気持ちがあるというのなら分かりますが」
「…『そうだ』と答えたら、この事件に関わらせないつもりだろうが」
「ええ。当たり前です。それに彼女は大層なキラ信者のようですし、夜神くんがキラに寝返らないとも限らないですからね」
 さらりと月が裏切るような人間だと言ってのけたLが、お茶請けのクッキーを貪る。その手を叩き落としたい衝動に駆られながら、月は頬を痙攣させるに留めた。
「お前は僕がそんな人間だと思っているのか」
「…というか、月くんは根本的に犯罪者なんて死んでしまって当然と思っているでしょう?」
「何を根拠に」
 吐き捨てるように言うと、やっとLの視線が月へと向いた。
 その肩越しの真っ直ぐな視線に、瞬間気圧される。
「…確かに、死んでしまった方がいっそ世の中の為だと思うような人間はいるけどね。それに賛同できるほど、僕は子供じゃない」
 それに気付いて、心の底を奮い立たせて、正面からLの視線を受け止めた。
 しばらく見つめあった後、Lがフイと視線を逸らした。
「では好きにしてください」


////To be continiued/////

2006.08.31


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