畢竟、私は貴方を裏切った。


【残酷ピエロを幾度も殺し】


 当時、私は何も持っていなくて、今よりももっと出来る事は少なかった。
 光の見えなかった瞳は、それでも今よりも明るく見えて、彼を頼ることしか出来ない自分に腹をたててはいたが、それでもずっと未来は明るいように思えた。
 今が、幸せじゃないとは言わない。
 とても、幸せだ。
 とても。とても。
 私のした行為を、彼は少したりとも望んでいなかった。ただの自己満足にしか過ぎない事だった。しかし、彼を多くの命の重みから解放する事が出来て、とても幸せだと思った。
 少しばかり短気で、正義感が強くて、退屈ばかりしている彼の、体温と優しさがすきだった。
 二度と、手に入れられなくても、それでいいと思っていた。
 けれど、どうだ?理性ではダメだと分かっていながら、今、私は彼の傍にいる。
 必要以上に近寄る事を拒み続けられないでいる。
 これ以上近づいては、またいつか彼を酷く裏切る日がやって来るような気がするのに…。
 いや、それでは語弊があるだろう。ずっと私は彼を裏切り続けているのだ。
 嘘をつき続け、隠し続けて、彼への想いを断ち切ろうとする、その裏切りを、今も十分犯しているではないか。
 そして、裏切るならば、完璧でなければならないと分かっていながら、この優しく包む温かい体温に抗う術をどこか遠くに忘れて来たようだった。
 暖かくて、とても懐かしい。
 私を愛していない、この瞬間でさえ、この腕はこんなにも暖かい。

「月くん…」

 夢うつつ。夢の中でだけ呟いたつもりが、唇から零れた呟きで、Lははっと目を覚ました。
 暗闇から飛び出した光の中の月の顔が驚いたようにLを見つめている。
「……っ」
 大きく見開かれた瞳がゆっくりと2・3度瞬きをした。
「…おはようございます、夜神くん」
 いつの間にか向かい合って寝ていたらしい月に、瞬時に態勢を立て直すとLは軽く挨拶をして起き上がった。心地よい腕の重みをするりと逃がす。
「ニアやメロ以外の他人と寝たのは初めてでしたが、どうやらちゃんと眠れたようです。有難うございます。…今日はキラ事件についてちょっと話たい事があるので、朝食をいただいた後、ゆっくりとお話したいと思います」
 言い含めるようにとつとつと喋り、ベットから降りると背中をむけた。
 それから、少しだけ後ろを振り返って、口を開く。
「容疑者らしき人物をみつけました」


////To be continiued/////

2006.08.31


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