どうしても思いを止めきれなかった。
 有り余るくらいの幸せな、この体温をどうして手放せようか。
 私の中の寂しさを、
 私の中の切なさを、
 私の中の、彼を求める果てしない欲求を、
 いっそ残酷なまでの恋しさを、殺しつづけられはしないのだ。


【残酷ピエロを幾度も殺し】


 薄ぼんやりと目が覚めて、第一に視界に映ったのは月の安心しきったような寝顔だった。
 それを見て、Lは微笑む。
 これからも、月には言えないことがある。月はLの隠す嘘で胸を痛めるかもしれないが、月がキラだった頃の痛みに比べれば、きっとましだ。
 ただの独りよがりな見解かもしれないが、幸せなんじゃないかと思える。…そう、思いたい。
 子供のように安心しきってLの中で眠る横顔に、そっと手を伸ばす。
 栗色の髪の毛に指を絡ませて、感触を楽しみ、胸元に顔を埋めて懐かしい匂いでいっぱいにした。
 今もキラ事件は進んでいるのに、こんな事をしていてはいけないと思いながら、己の中が蕩けていくのを止められない。
 理性では早く捜査に戻らねば、と思うのだが、感情が納得してくれない。
 どれほどの感情を押し殺していたと思う?
 どれほどの時間と、思いに、瞑目したままで過ごしてきたと?
 離れがたい。
 離れられない。
 でも、このままではいられない。
 魅上は月の時とは違い、どんな小さな犯罪も許さない。これが、Lが月からデスノートを奪った結果なのだとしたら、世界に申し訳がなさ過ぎる。
 Lは既に一日を犠牲にしてしまった。これ以上私情を挟むわけにはいかない。
「なに、遊んでるんだ?」
 優しい眼差しが注がれて、Lは月から少しだけ身を離した。
 どうやら、Lが身動きしたので目が覚めたらしい。
 夢でないかを確認するように月の唇がLの唇に触れた。
 その体温に、Lは瞼を閉じて幸せをじっくり噛み締めた。
 それから続きを続行しようとする手を無理やり止める。
「捜査をしなくては」
「………、……、そうだな」
 月が何か言いたそうに、Lの顔を覗きこんで、Lは唇の端を上げた。
 じっと見つめて、お互いを確かめあうように瞳の奥を探る。
 月の言葉にLは小さく頷いた。



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