思いが通じれば、彼のすきな砂糖菓子のような時間を過ごせると思った。
 けれど、それは間違いだってわかって。
 それでも、楽しくて仕方なかった。


【残酷ピエロを幾度も殺し】


「だから、駄目だと言ったでしょう?月くんの頭は豆腐が入ってるんじゃないですか?!」
「だから、僕も言ってるだろ!?幾らお前の方が情報を持ってるとは言っても、別に何でもあれの魔法の世界っていうワケじゃないんだ!検討するくらいの価値はある!僕の頭が豆腐だっていなら、お前の頭は角砂糖だ!!」
「何ですって!角砂糖のどこが悪いんです!」
「お前だって豆腐の良さを知らないんだろう!ヘルシーなんだよ!甘いだけの角砂糖と違ってね!」
「砂糖だってなめてもらっては困ります!!」
 ぐるるるるる!!
 二人して睨みあって唸っているところに、ワタリが紅茶を淹れて下がって行った。
『…おい、話が脱線してんじゃねーの…?』
 基本的にはおっとりと見守るだけの老紳士の代わりに、メロの呆れた声が高性能のスピーカーからあたかも傍にいるが如く響いて月とLははっと我に返った。お互い視線があって、まるで子供の喧嘩のように無言で睨みつけた後、ふん!と顔を逸らす。
『で――、どうやって魅上を確保して、証拠をあげるかって話だけど――』
『この際、麻酔弾でもぶち込めばいいんじゃないですか?意識がなけりゃ殺しも出来ないでしょう。下手すりゃ魅上が死にますけど』
 ニアのさらりとした言葉に加熱していた場の空気の温度がすぅっと下がった。
「いや、警察を辞めたとはいえ、それは…」
『お前…よくそんな事思いつくな…えげつないぞ」
『そうですか?一番効率が良いと思いますけど。要は顔を見られなければいいのでしょう?幾ら能力がアップしても、無意識で人が殺せるとは思えません。眠らせる時に近寄らなければいいのなら簡単でしょう?遠くから狙撃させればいいのですから。死んでは元も子も無いというのなら、魅上の事務所に催眠スプレーを仕込んでもいいと思います。』
「まあ、つまり僕と同じ意見だっていうわけだ…」
『違います、私の意見です』
「は?僕の方が言ったの早かっただろ?」
『あー、もー、うぜー。で?Lどうすんの?オレも早い方がいいっていうのだけは同感だけど?』
 三者三様の言葉の後、意識がLに集中された。
 ここにいる…といってもネットワークの回線越しだが、誰もが最高峰と言っていい頭脳の持ち主が一人の言葉を待つ。月はニアやメロには負けないと、そしてLに対しても本当はそう思っているが、どう考えてもこの場で決定権を持つのはLの言葉だ。
 Lは少し考えながら、紅茶にぽとぽとと角砂糖を投入しながらガリガリと爪を噛んでいる。
(ああ、そんなに爪噛んじゃって…)
 透明な爪が白く色を変えるほど、Lの親指の爪はぼろぼろだ。
 Lを抱いた日から、月は幾ら口論して苛立とうが、殴り合いになって腹を立てようが、Lの事が心配で堪らない。
 『L』という重大な責任を身のうちに抱え込んでいるだけでも充分不幸だと思うのに、Lはそれ以上の重荷を一個の固体に潜ませ続けているのだから。Lという責務だけなら、助けてやる事が出来る。傍にいて、自分の能力を如何なく発揮してやればいい。
 まあ、彼は負けず嫌いの意地っ張りだから、本当はそうされる事を厭うんじゃないかと思うけれど、嬉しいと感じてくれるんじゃないかとも思う。だから、そうしてやりたいと思う。
 タッパは同じくらいあるのに、痩躯と表現できる、やせっぽっちな薄い体に深い隈を、月は哀れに感じる。だから、早くこの事件を終わらせたい。
 そうする事で、『L』を分かち合えるという事以外に、Lの抱える秘密も分け合えるのではないかと感じるから。
 だから、これまで考えられる限りの案をLに提案して来た。
 そのどれもが却下されて、言いようの無い不安と焦燥を燻らせながらLを眺める。
 Lが頷かない限り、先に進めない。一緒に背負ってやれない。
 ガリッとLがまた大きく爪を噛んだ。
「少し一人で考えさせてください」



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