今でも あの感覚を 忘れていない。 私が 望んでしたことでは なかったが、 間接的に 私は自らの養父の 殺害に手を貸したのだ。 【残酷ピエロを幾度も殺し】 デスノートというものは、厄介な代物だと思う。 確かに殺したと自覚した瞬間は罪の意識に苛まれる。 だが、代物が代物だけに、自らが犯した罪というものが、とても希薄なのだ。 ノートに名前を書く。 そんな事は日常の行為の一部ではないか。 特に変わった作業でもなく、しかもノートにその人間の名前を記しただけで、人が死ぬ。 そんなバカな話、実際に試してみるまで分からない。 デスノートは人の人生をいとも簡単に狂わせる罠を持っている。 防衛本能・選民思想を甘くくすぐる罠がある。 しかも所有権を手放せば、己の所業のすべてを忘れるというプレゼントつき。 リュークの話では、デスノートに書いた人間の残りの寿命が死神の寿命になるらしい。 デスノートがただの死神を延命させるための道具。 だが、しかし。所有権なんてものから考えるに、これは人間に渡すこと前提に作られている。 誰が作ったのか。 そんなものは知りはしないが、神が創ったとするならば、アダムとイブを楽園から追放するために用意されたヘビと林檎のようではないかと思う。 うまく、うまく 導かれて その林檎を齧ることを 強要されているようだ。 この事件を一番うまく収めようと思うなら、魅上の自らの意思の上にノートを返上させれば良い。 これならば、もし死神が魅上を特別に思っていたとしても、周りの人間に危害が及ぶことはない。 そして、もう一つ。 魅上の死神にも、誰にも気付かれないように、デスノートで魅上を殺す事。 ああ、でも、私は 怖い。 怖くて 怖くて たまらない。 デスノートによる、罪の意識は、とても希薄だ。 それに慣れることが、怖い。 忘れられずとも、仕方なかったと思える事が、怖い。 仕方なかったと思っている事が怖い。 もう一度、そのノートに名前を書く事が 怖い。 私はあの血溜まりを 忘れない。 彼の泣き顔を 忘れない。 その彼があの時と同じことを言う。 キラと同じ能力を持っていたとしたら、殺すよ、と。 今にも銃を手にして、飛び出して行きそうな勢いで。 幼稚で、冷徹で、その上とびきり優しいあの人が。 再び血にまみれようとしているのが 何よりも 怖い。 彼を失うんじゃないかと、思うこと が 何よりも。 その夜、私は隠してあったデスノートを取り出した。 今犠牲になっている、命を奪ったのは私、同然。 next→ …………………… [0]TOP-Mobile- |