どうして気付かなかったのだろう。
 どうして分かってやれなかったのだろう。
 どれだけ、相手の事を思っていても。
 間違ってしまうんだ。
 失くしてしまうんだ。

 何かを大切にする事は、途方もなく難しい。


【残酷ピエロを幾度も殺し】


 明け方、重い金属の擦れ合う音で目が覚めた。
 ぼんやりと瞼を持ち上げると、白いシーツが視界いっぱいに広がった。
 それで、いつもの夢を思いだす。
 イギリス、ウィンチェスター、霧の町。
 だが、月はもうその霧の先の人物を手に入れた。
 焦れることもない。
 だからぼんやりと琥珀色の髪を掻き揚げようと思って、異変に気がついた。
「…、手錠?」
 手首を重く戒める、その枷を認識して、一気に覚醒した。
「Lっ!」
 既に隣で眠っていたはずの隣人はもぬけの殻。
「クソッ!!Lめ!!」
 がばりと起き上がって、鎖の先に拳を思いっきり叩き付けた。
「L!!この手錠を外せよ!!」
(なんだってあいつはいつも、いつも!!僕の意思を無視しようとするんだ!!)
「L!聞こえているんだろ!?」
 腹の底から怒鳴って、返ってくる音に耳を澄ませた。
「…L?」
 月の耳に届くのは、虚無ばかり。
「まさか…いないのか?」
 一人呟いて、ふと背中に悪寒が走りぬけた。
「なんで…。ここから、指示を出すだけでいいはず、だろ…?」
 魅上を取り押さえるのならば、月に邪魔をされたくないというだけならば、隣室で指示を出すだけでいい。
「………なんで」
 それなのに、隣室からは、人の気配がしない。
 冷たい汗が、月の背中を流れ、

 くっくっく

 聞こえもしない笑い声が頭の中に響く。


「…あ、…あ、…あああああああああああああああああ」


 枯れた目に

 涙ひとつぶ。



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