残酷ピエロを幾度も殺し。



 木枯らしが吹き付ける並木道。
 辺りに人がいない事、人がこない事を確認して呼びかけた。
 仕事途中のスーツに黒いロングコートを靡かせながら、相手が振り向いた。
 眼鏡の奥の鋭い瞳が大きく開かれて、Lを凝視する。
 履き潰した靴をぱこぱこ慣らしながら、しっかりと抱えられた鞄にかけられる手首を取った。
「寿命の見えない人間は初めてですか?」
 驚きに、ますます開かれた目を覗き込みながら、しっかりと発音する。
「私はLです」
「…バカな」
「貴方が先日殺した『L』は私ではありません。偽者です。」
「…!」
「私に従いなさい。でなければ、魅上、あなたを殺すしかありません」
「―――!」
「ノートを渡して、所有権を放棄するのです」
 声音を一切変えることなく、吐息がかかりそうな至近距離で魅上の目を覗き込んだ。
 動揺に揺れていた瞳が冷静を取り戻して辺りを見回した。
「レム、20秒でいい」
「!」
 酷く落ち着いた声の後、見えない手に拘束されて息を呑む。
 開け放たれた鞄から一冊のデスノート。
 これで答えは出揃った。
 目を細めて自分の名前がそのノートに記されるのを眺め、風が髪を浚うのに感覚を委ねた。
 目線だけで見上げた空はやけに遠くて、この空のどこかに死神界などという厄介な代物があるのだろうと憶測した。
(私が死ねば行き先は無でしょうか?それはそれで構いはしませんが、私はそれを信じたくはない。死神の知らない世界があると思いたい。でなければ―…)
「もう、大丈夫だ」
 最後の一文字を書き終えた魅上がノートを畳み、時計の針を眺めてそう言った。
「残念だったな、L」
 拘束が解かれ、魅上が背中を向けて歩き出す。
(でなければー)
 それに私はにこりと笑う。
(寂しすぎる…)
「残念でした、魅上照」

「少しでも不審な動きをすれば、即射殺します」



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