STAGE:1
【僕とボディーガード】#1



 けれど、第一印象は最悪だ。

「私、嫌ですよ。こんな子供のボディーガードなんて…」
「………」
(明らかに僕と同年代だろ!? )
 『初めまして』と差し出した手の平と笑顔が、その場で凍りついた。
 腹の内で思いつく限りの罵詈雑言を吐いてから、再び目の前に立つ男を睨みあげないように気を使いながら眺める。
 こんな事で態度に出すほど子供じゃない。
 年齢だけでいうなら、月の2・3歳年上というところだろうか。
 人を守るという職業を担っているくせに、その猫背はどう見ても一流のプロとは思えず、その着衣もよれっとした長袖のTシャツにジーンズといういでたち。そして目の下の大きな隈はむしろ不健全さをアピールしているとしか思えなかった。
(こんなヤツに断られるなんて屈辱だ…)
 夜神月16歳。まもなく高校2年生。表向きの肩書きはこんな所だが、実は今世界の注目する医学研究会の新星。免疫の知識に関しては数年もすれば右に出るものはいなくなるかもしれないといわれている天才的頭脳を持っている。
 それが今まで曲がりなりにも普通の生活を送れてきたのは、その肩書きを背負わなかったからだ。研究成果や論文はいつも極秘に渡した代理人に発表させていた。
 そう、『いた』のだ。
 過去形。
 その代理人が殺されて、月は表に出ることを選択しなかった自分の考えが正しかったのだと思い知った。
 人の業はとても深い。
 月が生きる事によってどれだけの人間が生かされるかも分からないのに、妬みや損益なんて軽蔑するような感情一つで、誰かを抹殺しようなんて行動を起こすのだから。
 そして、天才はいつも異端児として敵視されるものだ。
 代理人が殺された今、そいつらは月に繋がる何かを探っているに違いなく、身元が割れるようなヘマはしていないつもりだが、自分以外の誰かがそのヘマを起こしていないとも限らない。警察官次長である父が犯人について調べているのは知っているが、いつ実を結ぶかも分からず、敵が月を探し出すのが先かもわからない。それに敵がひとつとも限られないわけで…。
「僕を守る価値がないと?」
 今まで、ボディーガードがいなかったわけでは無い。父が次長ともなると、今の社会では家族に害が及ばないとも限らなく、その為に家にいる分には通常以上のセキュリティと数名のボディーガートがついている。まさか警察官を配置するわけにはいかないから、そうするよりない。
 長期の休みは今までと同じでも良かったが、月は高校に上がってから有名な子息ばかりの住まう全寮制の高校に通っている。家同様にセキュリティも万全で警備員もいるし、最低限の防衛手段は身につけているが、もし身元が割れ、特別に狙われた場合、自分の身を守りきれる自信はない。
 今まで学園内での事件が成功した例は限りなく0に等しかったが、それは子息自体にそれだけの価値が無く、その目的が誘拐だったからだ。金が欲しいならわざわざセキュリティの厳しい学園内に潜り込んでまで誘拐する必要は無い。親を抹殺したいなら、子供を誘拐するまでの手間をかけるよりも直接ターゲットにした方が早い。
 だが、月の価値は皆とは違う。だからこそ、特別な警護が必要なのだ。
 その為に、表沙汰にはされてはいない、大っぴらではないボディーガード。それも自分と同年代の、寮に潜入できる優秀なボディーガードが必要だった。
 それで、世界の世情にもよく通じる父である総一郎が依頼したのが、ワイミーズハウスという組織に所属するこのボディーガードだった。
 つまり、目の前にいる『L』というこの男のことだ。
 一目しただけで、月はどうやって穏便に断ろうかと思案していた。
(それを先に断られるなんて、ね!)
 どう見ても、目の前の多少病的に見える男が有能には思えない。
 父が連れてきた人物だから、全く使えないわけではないだろうが、実は射撃の腕が優れてます、なんていうのでは月の安全は守れやしない。
 Lに月の想像以上の特技があったとしても、だ。
 月は好戦的に吊りあがりそうになる口許に気を配りながら、見据えるような視線をLにむけ、挨拶の為に差し出した手を組んでLの返答を待った。
 この奥の見えない目をした男に『僕を守る価値がない』とはいわせないつもりだった。
 確かに月はLよりか1つか2つ年下かもしれなかったが、それが理由でバカにしたように断られるのは癪に障るというものだ。というか、そんな理由で断るボディーガードなんてプロではない。月が断る理由が更に増えただけだ。
 だが、Lに断られた後に、「僕も他の人間がいい」なんていえば、負け犬の遠吠えに相違ない。自分を認めさせた上でこちらから断ってやるつもりでLを視線の奥だけで睨みあげると、緩やかにLの唇が開いた。
「自分で『守る価値』なんていっちゃう所が子供なんですよ」
 これにはカチンときた。猛烈に。
 頬がピクピクと痙攣して、どんな罵詈雑言を吐いてやろうかと思った所で、それまで驚きに状況を見守っていた父総一郎と、L側の老紳士が口を開いた。
「竜崎、そう言わずに。確かに君から見たら月は子供かもしれないが…」
「…父さん…!」
「そうですよ。私から見たら竜崎もまだまだ子供です」
「…ワタリ…」
 敵がやり込められるのを見て、月は内心よくやった!と見知らぬ老人に心中で喝采を送る。
 Lがハァと溜息をついて、顔を上げた。
「まあいいでしょう。引き受けましょう」
 その言葉に、月は『偉そうに!!』と再び激昂しかけたが、父がその提案の呑んでしまうのに先んじて素早く口を開いた。
「…そうだね、Lがこの休みの間に僕の眼鏡に適うようだったら」
 皮肉交じりに薄っすらと笑って継ぎ足す。
「何しろ僕自身の命がかかっているんだから」
 『お前に僕の命が守れるのか』との揶揄にLの黒目の奥が光ったように見えた。


to be continued★


………………………
・あとがき・
こんばんわ!水野です!!
やってしまいました、新連載第一弾★
思いっきりパラレルです。時代背景(?)も。
少しでも楽しんでいただけるように、私も楽しみながら頑張りたいと思います!
これから宜しくお願いいたします♪
2007.05.24 update


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