STAGE:1
【僕とボディーガード】#2



 で、あるからして。
 僕のLへの第一印象は最悪だったわけだ。
 そして、それは第一印象といわず、留まることを知らない。
 テストの期限は一週間。



「そこが、君の部屋」
「替えてください」
 月の部屋と同じフロアにある比較的簡素な部屋。
 今まで月の警護に当たっていたボディーガードが使用していた部屋に、一通り屋敷を案内してから連れて来たのだが、入るなり開口一番拒否されて、月の眦(マナジリ)が否応なしにピクリと上がった。
「…なんだって?」
「替えてくださいと申し上げました。この部屋では駄目です。先ほど案内された夜神くんの書斎をいただきます」
「…いただきます?」
(何を勝手なことを…)
 我が物顔に『いただきます』などと言い放つLの後頭部を睨みつけながら皮肉を込めて聞き返すと、「見るまでもありませんが」と前置きして室内を徘徊していたLがぐるんと振り返った。
「こんな所では夜神くんを守れません」
「…へえ?」
「私は引き受けると言ったら、どんな内容であろうときちんと引き受けます。月くん専用の守り手が私だけなので、傷ひとつつけないとは言う安易なお約束は出来ませんが、命の保証だけはしますよ。その為にはこの部屋では困ります」
「その為のボディーガードなんだけどね。…だけど、どんな状況下でも僕を守りぬくのがプロだろ?なぜ僕のプライベートな空間をお前に分け渡す必要があるんだ?」
 どうやら二つ年上らしいLの顔をシニカルな笑みを浮かべて嘲り半分上目遣いに見上げる。それにLは手近な椅子を引き寄せると、その上に足をかけてちょこんと体育座りのような格好で収まってから一度天井にやった大きな黒目を真っ向からぶつけて来た。
「どうやら理解していただけていないようなので言っておきます。どうして貴方は私を雇ったのですか?自分の身を守るためでしょう。私はプロですから、どんな状況に陥っても貴方を助けるための最善の努力はします。ですが私は貴方ではないので、私がどれほど有能でも間に合わなければ死ぬのは夜神くん、貴方なんですよ。間に合わなければ身代わりにすらなれません。プロであっても、超能力者ではないので、空間を飛んで現われるなんて事は不可能なんですよ。この単純な原理、分かりませんか?」
 最後の一言にぐっと押しやられた言葉が「馬鹿にするな」という言葉にすり替わりそうになった。
 だが、Lが言葉を継ぐ方が若干早く月はそれをごくりと飲み込む。
「ですから、いくら貴方が私の雇い主とは言っても不都合なことがあれば言いますし、出来る限り聞いていただきます。主人がボディーガードを信用してくれなくては話になりません」
「…信用、ね」
 Lの言葉を繰り返して、その実引っ掛かったのは『主人』という単語だった。この不遜な男に主人といわせるのは悪くない。
 その仮初めの主人がどんなに素晴らしい人物なのかを分からせてから切るのも一興だ。
「言い分は分かった。本当に信用できるかはまだ分かったものじゃないけど、書斎は好きに使っていいよ」
「それは、どうも」
「…ところで、僕がそれでも嫌だと言ったらどうするつもりだったんだ?」
 ぎっと音を立てながら椅子から立ち上がるLに嫌味半分で聞いてやる。
 そしたら何て答えたと思う?

「そうですね、見張りと称して一日中月くんの傍で待機するつもりでした」


to be continued★


………………………
・あとがき・
手錠生活のように一秒も離れることなく傍にいればそれはそれでいいと思いました(笑)
2007.05.28 update


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