STAGE:1
【僕とボディーガード】#4



 大見得を切ってくれたLに、僕はどうやってその実力を試してやろうかと一晩中暗中模索していた。


「おはようございます、夜神くん」
 ガチャ。
 ノック無し、朝一番の闖入者は誰かと思えば、昨日付けで月専用ボディーガード(仮)になったLだった。そうだ、この家でこんな風なことをする人物はこいつしかいない。
「…おはよう。ノックは?」
「ああ、もう着替えがお済のように聞こえたので、忘れました」
「………」
 突っ込みたいところが沢山ある。どこからLに文句をいうべきか逡巡していたところで「朝食の時間は7時ですよね」、と聞かれて頷く。
「主人の部屋にノック無しに入るなんて一流のボディーガード失格だね」
 品のよいツイードのジャケットに身を包みながら月がLを睨むと、Lはいけしゃあしゃあと「そうですか?」なんて答える。
「そうだよ。主人のプライベートを守りつつ、ガードもするのが一流ってものじゃないのか?始終聞き耳を立てられているなんて思い知らされたりするのって、気分悪い」
「はぁ。まあ、一流の定義にも色々ありますからね…。気分を害されたのならお詫びしますよ。けれど、分かってもいただけたでしょう?私には夜神くんがー…そしてその周辺で起こっている事が別室にいても分かるということが。その点においては安心して過ごしていただけますよね」
「………」
 わざと『主人』というフレーズを強調して言ってやったのに、無頓着にスルーする厚かましさが無闇に月の神経を逆撫でする。減らず口を叩くLをなんとかして凹ましてやりたい。
(だけど僕は常識人…。貴重な家族との朝食を遅らせてまで今こいつを凹ましてやるのに時間を費やすわけにはいかない…)
 そう思って月は無言で家族の待つダイニングへと急いだ。

 基本的に夜神家の朝は一家揃うことを重視した朝食をから始まる。
 父である総一郎はその仕事柄上、夕飯を共にする事が出来ないことが多いからだ。朝食にしても毎日一緒というわけにもいかずに、一家全員が揃うという事はなかなか珍しい。月が高校にあがってからそれは右肩上がりに顕著で、長期の休みにのみ、こういう食事をとることが出来できる。つまり、平たく言えば珍しいのである。
 だから、月はこの触れ合いをことの他大事に思っていた。
 ボディーガードなどがいる関係で、夜神家にはボディーガードを兼ねた専用のシェフもいる。しかしながら母は朝食については必ず自分で作っていた。その手料理を皆で味わうことは月にとって貴重な時間だ。
「月、おはよう」
「お兄ちゃんおはよー!」
「おはよう、月」
 ダイニングに集まった家族の口々の朝の挨拶の言葉が投げかけられたが、前述の気持ちはどこふく風、月は低く「おはよう…」と呟いた。
 爽やかな朝は、ことごとくLによってぶち壊されているような気がする。
 6人掛けのテーブルに一皿増えた食事は予感ではなく、確信だ。
「あのさ、これは…」
「Lさんもおはよー!」
「お早う、竜崎」
「竜崎さんおはよう、昨日はよく眠れたかしら?」
 唇の端を引き攣らせながら呟く月の声は粧裕や父母の言葉に見事に遮られた。
「お早うございます、サユさん、夜神さん、ママさん。はい、おかげさまでぐっすりと」
(!!?何でこんなにフレンドリーなんだ?!?)
「Lさん、Lさん、早く座って!昨日貰ったお菓子凄く美味しかったよー!今度また勉強も教えてね!凄く分かりやすかったよ」
「!!!ちょ、粧裕!」
「なぁに?お兄ちゃん」
 粧裕が自分の隣と嬉しそうに指すのに、思わず月はその仲に割って入るようにしてLが椅子に座るのを防ぐ。
「…竜崎はボディーガードだから…」
 言いかけて、皿が用意してあることは、自分以外の家族の了承を得ているのだろうと悟って閉口する。
(何で僕のボディーガードなのに、僕が知らないんだよ!!!)
 恐らく、もしLが月のボディーガードに決まるならば、Lの肩書きは月の親戚となるからにして、違和感が生じないように一緒の食事をとる機会を設けようと両親が配慮したのだろう。
(勝手なことを…!!)
 口の中だけで悪態をついてから、月はにこりと笑う。
 Lと一緒の食事なんて御免被りたいところだが、融通は必要だ。
「僕の隣に座らないと…。粧裕、席を代わってくれ…」
 何としても、この奇妙な男を可愛い妹に近づけるべきではないと思い、苦渋の決断を下す。
 素直な妹は「そっか」と言って、素直に一番端の僕の席に移った。
「確かに、その方が夜神くんを守りやすいですね?」
 半分不貞腐れた視線でLに『座れよ』と促した月に、Lの笑いの含んだ声が降って来た。それで一層機嫌が悪くなる。
「凄いね!もう視線で会話できるくらいに仲良しなんだね!」
 それでもなるべく穏便な表情を作って座った月に、粧裕が追い討ちをかけるような言葉を発して、月はその場で頭を抱えたくなった。


to be continued★


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・あとがき・
物凄く、Lに『ママさん』といわせたかった水野です。コンバンワ。実は密かに総一郎さんを『パパさん』と呼ばせることも目論んでます(笑)
2007.06.05 update


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