STAGE:1
【僕とボディーガード】#8


 ドッドッド、と心臓がうるさく鼓動した。


 無謀、である事はよく分かっている。
 どこの世界に自分の主人を囮に使うボディーガードがいるだろうか。
 初めてあったときからやること成すこと破天荒極まりない。
 けれども、この事態を招いたのは月なのだ。
 出来るなら、出来ることなら、妹を一刻も早く恐怖から救いだしてやらなければならいと思う。
 ならば、破天荒だろうが、奇天烈だろうが、手段は問わない。
 月は決心をして思いっきり口を大きく開き、「粧裕!!」と声を上げて目的の倉庫へと近づいた。
「粧裕!粧裕どこだっ!お兄ちゃんが助けに来たぞ!!」
 声を張り上げながら、倉庫に近づく。
 人質を助けようとするのに、わざわざ警告してやることはない。それは常識だが、この場合は妹の『兄』が来たことを誘拐犯に教えてやらねばならなかった。粧裕を誘拐した奴等は月のこともよく知っている筈で、声をあげれば、月を確認することが出来る。
 だから、この場に来たのは自ら人質になりに来た馬鹿な兄としか誘拐犯の目には映らないだろう。
 途中まで追いかけて来ていたバイクの後ろの人物が月だと確信した誘拐犯は、途中でガス欠が起きたために雇い主から目を離した甘いボディーガードには気をとられない。ボディーガードがいれば、こんな声はあげさせない。そこを突く。
 勿論、だからと言って月が安全だとは限らない。運が悪ければ負傷してしまうことだってあるのだが、そこにはもう目を瞑った。
「ここか、粧裕!?」
 ガレージを思いっきり叩き、それから勝手口に回って勢いよく扉を開いた。
 そこには、相手方もガス欠寸前であろうワゴンが1台と、縄に縛られた妹の姿、その横を固めている男二人と、目の前の月を捕縛しようとする手、一つ。
「おにいちゃ…!!」
 粧裕の声に一瞬視線をやったが、伸びてくる手に思いっきり目を瞑って防御体制を取る。
「ご苦労さまです」
 銃を抱えた男の腕に捕らえられた瞬間、涼やかな声と、カツンという金属音が背後から聞こえた。
「うっ!」
「きゃっ!」
 白い閃光が瞼を閉じていても認識できた。
 うめき声と粧裕の悲鳴が耳についた次の瞬間、開いた目に通用口の庇を掴み、上方から、猫のような身のこなしで蹴りを繰り出すLの足が迫って来て、月は危うく身動ぎをしてしまうところだった。
 急所である側頭葉を打撃したLは忍者のようにどこからともなく鉄分銅のついた長い鎖を取り出して、迷う事なく残りの二人の身体に巻きつけて引き摺り倒したのだった。


 そして、短い誘拐劇は幕を閉じた―――。


to be continued★


………………………
・あとがき・
本当に短く終わってしまいました…orz

2007.06.17 update


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