STAGE:1
【僕とボディーガード】#9


 深く椅子に腰をかけて瞑目する。
 今日はLが正式に僕のボディーガードをやめる日。


 このままにしておくのが、良いんじゃないのか。
 そう、月は思いながらぎゅっと全身に力を込めた。
 膝の上で両手を組んで、その拳に頭を寄せる。
(本当に、これでいいのか…)

 誘拐犯を引き摺り倒し、もがく二人に素早くクロロフォルムを嗅がせて失神させた。
「大丈夫ですか?」
 うわああん!と大声で泣く粧裕を抱いたまま月は小さく頷く。
 怪我も無く、無事に終わったと思った瞬間、粧裕の縋る体重と一緒に崩れ落ちてしまいそうだった。
「良かったです」
 それがLの一言を聞いて踏ん張る。
 これ以上みっともない姿を見せたくなかった。
「………」
 それよりも、謝罪と礼を述べなければ、と思ったが、喉の奥がカラッカラに乾いてしまっていて、何の言葉も出てこない。
『竜崎』と呼びかけようとしたが、彼は遠くから聞こえてくるサイレンの音に二人の元を離れていってしまった。
「粧裕っ!!月っ!!」
 間もなくして、月に抱きついたまま泣き喚く粧裕が漸く落ち着きを取り戻した頃に、父が駆け寄って、刑事の顔をした父はその迂闊な行動を責めた後で月ごと粧裕を抱きしめて「無事で良かった」と呟いた。
 背後には慌しく動き回る複数の刑事に紛れて複雑そうな顔をしたボディーガードが並んでいた。
 その姿を見て、月の胸に苦々しさが広がる。
 誰に対するものなのかはやはりまだ判別がつかなかったが、その苦さに視線を逸らす。
(竜崎…)
 逸らした視線の先に、Lの普段と変わらない姿があって、月の胸は更にざわつく。
「竜崎…」
 再び視線を逸らして味わったことの無い苦渋をゴクリと飲み込んだ。そんな月からゆっくり離れた父がLの名前を呼んで、月はびくりと身体を震わせた後、Lと父を見遣った。
「残念だが、君を月のボディーガードとして雇うことは出来ない」
「はい」
 短い、返事だった。
「それでも、無茶な遣り方だったとはいえ、粧裕を助けてくれたことには礼をいう。有難う」
「それが仕事ですから」
「契約の関係もあるから、3日後、もう一度家の方に来て貰えるだろうか」
「わかりました。では私はこれで」
 簡単な遣り取りを、月は信じられない思いで見つめていた。
 事態を上手く飲み込むことが出来ない。
「……っ、んで……」
 瞠目した目で去っていくLの後姿を眺める。
「さぁ、粧裕、月。帰るぞ?」
 優しく促されて父を見、それからボディーガード達に視線を移した。
 責任者と、それに従う数名に、粧裕のボディーガード。
 それぞれが月に視線をあわせずにいることで、漸く事態を理解したのだった。


to be continued★


………………………
・あとがき・
えー。ボディーガードの皆さんが事実を隠蔽しようとしたという話です(笑)

2007.06.20 update


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