「…夜神くんを抜き損ねました」
「竜崎に勝ち損ねたね」

【ひぐらしの鳴く朝】


二学期が始まって数日。校内で行われた実力テストの結果が貼り出されて、えると月は呟いた。
お互い全教科満点、しかもこれ以上優劣つけられない解答だというのは、答案を見ずとも理解している。
「…こうなると、やはりスポーツで競うしか無いでしょうか」
「それは無理だろ。持久力とか基礎体力が違い過ぎる。特に力勝負じゃ勝ち目は見えてるよ」
「でも私の方が身軽ですよ。瞬発力なら負けませんけどね」
秀才二人の間に少し空間が空く。二人一緒だと何故だか近寄り難い雰囲気で、なんとなく皆遠巻きにするのだ。
「まあ、今の所は保留にしましょう。夜神くんは今日も部活ですよね、頑張って下さい」
「竜崎はクラブに入らないのか?ウチの学校は全員どこかのクラブに所属しないといけないぞ」
「はい、それで迷ってます」
「僕と同じテニス部じゃ駄目なのか?以前はどこに所属していたんだ?」
月の誘いに周囲の男女が色めき立った。
月は人当たりは良いが、自ら誰かを誘う事は滅多にない。
「以前は家の事がありましたから…どこにも入っておりませんでした」
「ああ…そうか…」
「調理部とかあればそこに入ったんですけど」
「…お前はお菓子が食べたいだけだろう…」
「ばれましたか」
「分かり易過ぎるよ」
猫のように見上げるえるに月は苦笑する。
「まあ、候補が無いのなら今日見学に来ればいい、先輩には言っておくよ」
「…そう、ですね」


放課後、図書室に用があるえるより先に、月は部室に向かった。
が。
「夜神くん、あの竜崎って子と付き合ってるの?!」
「………」
テニス部、その他の先輩に囲まれて月は途方に暮れた。
この中に以前交際を断った相手がいて、しかもそいつは今にも泣きそうだ。
(…まったく何だってんだ…)
特に関わった覚えも無いのに好きだと云う、
一度断ったのに、今また目の前に、しかも泣きそうな顔で立つ神経が分からない。
どうやって断ろうかと思案している月に、あちこちから言葉が畳みかけられる。
(何と言っても次々にこの手の告白は増えるばかりだしな…)
ふと、逸らした視線の先にえるが見えた。
誰かに背後から声をかけられて、追いついた見知らぬ男がえるに手紙を渡しているのが見えた。
「…すみません…」
それで腹が決まった。
「竜崎とー…えると付き合っています」
名前を呼ぶ声音があまりにも自然で、
申し訳なさそうな微笑のお陰で、とりあえず、マシンガントークは止まった。
一名、泣いてしまったが。


つっづく


…………………

ほひょひょ…!(謎)
20060910
dataup20060919


……………………
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