「月くんは部活に戻って下さい」
「嫌だね」


【ひぐらしの鳴く朝】


公園の一角にあるテニスコート、普通ならまあまあの人で埋まっていてもいいものだが、このテニスコートには人が少ない。
多分、鬱蒼と生い茂った木々が作る陰鬱な影と、管理人のいない荒れたコートのせいだろう。
よくこんな場所を知っていたな、と思いながら、月は昔から変わらない奇妙な手つきで、テニスのルールブックを捲るえるを眺めた。
「こんな事になったのは、僕のせいだ。責任は取る」
恐らく、今えるを快く迎えてくれる部は少ないだろう。女のネットワークと集団意識は怖い。別に月を好きである娘がいずとも、一旦火がついた加害心は時間か強烈なインパクト以外では拭えはしないものと思う。
「それに打ち合う相手もいないで、どうやって練習するつもりだよ。それにもう、部長には言って来た。今更戻っても油を注いだ火は消えないと思うよ」
「………」
チラリとえるが視線を上げた。逡巡しているえるの手から月は本を抜き取った。
「もうルールは覚えたんだろ?」
「…はい」
パタンと本を閉じる月に、説得するのを諦めたらしいえるがゆっくりとラケットを持って立ち上がった。
「ちょっと待って。ちゃんとユニフォームを着ろよ」
「…月くん…」
肩に掲げたスポーツバッグから、白いプリーツのスコートを取り出した月に、まるで変態を見るようなえるの視線が突き刺さった。
「妹のだよ…!お前、スカート穿き慣れて無いんだろ、だからわざわざ持って来てやったんだよ!」
制服で毎日スカートを穿くとはいえ、えるのスカートの丈は規定よりも僅かに長い。
先日私服で逢った時も、スカートの丈は長かった。入部試験は体操服でもいいかもしれないが、女子部員は皆、試合に備えてスコートを穿く。えるは負けず嫌いだし、運動神経も良い。恐らくテニス部に所属する事になるであろう彼女の為に、今の内に馴らしておいてやろうという親切心だ。
「…ここで着替えろと?」
「誰もいないだろ。それにズボンの上からスコートを穿いて脱ぐだけなんだから気にする事があるか?」
えるの今の出で立ちは、昔のように半袖のTシャツとジーパンという至ってシンプルな格好だ。
「…解りました」
「じゃあ僕はネットの調節してくるから」
弛んだネットで練習するなんてとんでも無いと、月はそんなに古くは無い癖によろよろのネットを張り直しに行く。
えるが視界の端でごそごそと動くのが目に入った。
(母さんが大きめなのを買ってたからえるだと丁度いいくらいだろ)
ネットを張りながら、チラリと窺う。
(…ア!)
するりとズボンを脱ぐ、えるの白い太股と、そこからチラリと覗く純白のレースのパンティに、月は心の中で声を上げた。
(…アンダースコート忘れてた!)
テニス部指定のアンダースコートは飾り気の無い紺色のもので、殆どブルマーと大差無い。
妹のサユの場合はスパッツを穿いていたが、普通のスカートと同じくらいに長いので、あまり意識はしていなかった。
えるが訪れた時にはウォームアップで体操服姿しか見ていないえるが、この事に気づく筈がない。
えるは月を信用している。
月がスコートしか渡さないのならば、そういうものなのだと思ったに違いない。
ニュースで取り上げられるテニス選手がつけているアンダースコートは白のものやレースがついているものまであるわけだし。
「月くん、用意出来ました」
「あ、ああ」
思わず魅入っていた月は、さっと視線を逸らせて頷いた。
今更元に戻せとも言えない。
「こっちも終わった。…練習、しようか」


ねくすと☆


…………………

パンティと打ちながら、思わず吹きだしたのは、ワタクシです。(笑)
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