「向こう1月、私に触れないで下さいね」 【ひぐらしの鳴く朝】 「える!」 日曜日、前と同じ駅前で、今度は月がえるを迎える。 その顔はあれから3日経つ今でも渋い顔だ。 「何だ、今日はスカートじゃ無いのか。でも可愛いね」 やはりワタリに弄られたのか、今日はジーパンではあったが、ピッタリとしたTシャツの上に可愛いらしい7分袖のジャケット付きだ。カジュアル風なのにどことなく上品に見える。 「本心だよ」 ジロリと睨み上げられて、にっこりと笑ってやる。えるが隠そうともせずに大きな溜め息を吐いた。 「じゃあ、先に映画でも見に行く?」 「…鉢合わせしても知りませんよ」 以前、先輩に言い寄られた事を指しているのだと知って不敵に笑う。 「別に構わないよ。えるが一緒ならね」 「……」 はぁ、とえるがまた溜め息を吐く。それにめげずに月は話を続けた。 「それとも、どこかリクエストはある?行きたい店とか」 えるの大きな黒目が月を見上げる。ゆっくりと口を開いた。 「では、水族館に」 駅から電車に乗り、バスに乗り継いで、える所望の水族館についたのは2時頃だった。 えるは幼い頃から祖父と二人暮らしだった為、遠足以外での遠出をした事がなかった事を月は知っていた。 それで昔、月がそれなら父に頼んで一緒に行こうと言ったが、えるはそれに首を振った。 まさか今頃、二人で水族館に来るだなんて予想もしなかったが、ようやく機嫌が治って来たらしいえるの隣に立つのは、悪くはない。 月は何度となく訪れた場所だから水族館に新鮮さは無いが、魚をじっと見つめるえるには興味はある。 「こんな箱にいれたままなのは可哀想ですが、鱗が光ってて綺麗です」 じぃっと観察しているえるから、流線型の魚がゆったり泳いで行く水槽に視線を移す。 「…鱗があるのは外敵から身を守る為ですよね。あとは浸透圧などの関係でしょうか」 「そうだね、鱗が無い魚は粘液とかあるから、一番の理由は浸透圧じゃ無いかな」 「色々と知りたい事がいっぱいです。帰ったら調べねば」 ワクワクしているえるを見て口元を緩くする。こういう所は変わらない。 「帰りに図書館にでも寄る?」 「そうしましょう!私はまだこちらの図書館に寄った事が……」 月の微笑みを受けて、えるがそっと顔を背けた。少しだけ目の下が赤い。 「じゃあ、最後にグッツコーナー見てから行こうか」 「…はい」 顔を背けたままのえるの手を取って歩き出す。一歩ぶん遅く歩くえると、えるの手を握って歩く月の姿に、他の家族連れやカップルの多くが微笑ましそうな視線を向けた。 「今日は楽しかったです」 「僕もだよ。えるとああいった所に行った事なかったしね」 月の言葉にえるが微笑む。もう機嫌はすっかり治ったらしい。 「それじゃあ、月曜に学校で」 えるが住まうマンションのエントランス。誰もいないのを確認して、壁に手をつき、肘をあて、顔を寄せる。 壁と月の間で板挟み状態になったえるが素直に目を閉じた。 柔らかくて温かい、唇の感触が脳へと走る。 途端に貪りたくなる衝動を抑えて、身を離した。 ゆっくりと瞳を開いたえるがにこりと笑う。 サクランボ色の唇が、柔らかく言葉を紡ぎ出す。 「向こう1月、私に触れないで下さいね」 続く!(エロ注意!) ………………… もっと初々しいデートをがっつり書きたかったんですけど…!!!(テンポが悪くなるかなーとか) dataup2006.12.04 …………………… [0]TOP-Mobile- |