二人の体重で軋むスプリング。


【ひぐらしの鳴く朝】


ギッ…ギッ…と二人分の重さを受けてスプリングが軋んだ。
最初は難色を向けていたえるだが、今は月の手に口を塞がれたまま、くぐもった喘ぎを出来る限り抑えるだけ。
「…ッ!!」
今度は欲を外に吐き出した月が、熱い溜め息を吐き出しえるから離れる。
「大丈夫…?」
「…大丈夫じゃ無いです…また避妊…」
「…う」
思いっきり忘れて生でしてしまった事を責められて口ごもる。
「本当は、口が酸っぱくなるぐらいに文句を言いたいのですが…、今はそれどころでは無いので…。…終わるまで気づかなかった私も私ですし…」
溜め息一つ、えるが瞼を伏せながら呟いた。
えるはそれで許してくれたが、月の不注意だったにしても、もし妊娠していれば大変な事になる。
恐る恐る、月は問うてみることにする。
「こんな事聞くのは何だけど…生理はいつ来たの…」
「…………………来てません」
「Σえっ?!」
身を清めていた手が止まる。
一階から「ライトー!」と母親の声がしたので「分かってる!!」と返す。
分かっているが今はそれどころじゃ無い。
「それって…」
「…違います…………。………………その」
「何」
「しょ…」
「『しょ』?」
「初潮が……まだ…」
言い難そうに、えるが呟く。月はガクリと脱力した。
「…びっくりした…」
「………」
確かにまだ来てなくとも変な話じゃ無い。初潮が来てないという事はまだえるの体が子供を授かるには幼いという事だから、思わず月はほっとして、ベットに体を預けた。
だがえるの年齢だと『だから安心』ともいえない。初潮が来る前に妊娠してしまうことだって可能性としてはあるのだ。
「そっか。でも次からは気をつける」
「…そうして下さい」
「じゃあ降りよう」
「…その前に、下着を着用したいので…後ろを向いてて下さいね」


妹のサユと、母の幸子が久しぶりだとえるを引き留めたが、えるは『今日は失礼します』と言って夜神家を後にした。
月は危ないからと言って『えるを送る』と一緒に家を出た。
「やっぱり、もう寒くなってきたね」
10月下旬。やはり夜の空気は少しだけ冷たい。
「そうですね」というえるの返事を聞きながら月はその両手をポケットにいれ、いつもより遅く歩く。
何だかとても変な気持ちだ。
胸のあたりが常に騒いでいて、少し腹立たしい。
何事も冷静に見極められるのが月の特技なのに、こんな散漫な精神では今後平静を保てるか不安だ。
(…いや、もう失ってるのかな…)
じわりと苦さが広がる。
えるに触れている時、
冷静さなんて綺麗さっぱり拭われていて、そしてそれを失ってもいいとさえ思ってしまった事は月の中で火を見るより明らかだ。
平静なんて保てていない事は、もう実証済み。
でなければ今回も避妊せずにしたり、その後寝入ってしまう事もなかっただろう。
母幸子が部屋に来た時もそうだった。
恐らく母は疑っただろう。年齢が年齢で、月の優等生ぶりを知っている母としては月がそんな事をする筈が無い…という思いの方が強かっただろうと思うが、月も若い。間違いだってあってもおかしくは無い。
異性と暗がりで寝ていたなんて、あまり上手い言い訳ではない。
下に降りた時に長年一緒にいたえるだからこそ信じて貰えたみたいだったが(幼い頃は疲れて一緒に昼寝をした事もよくあった)、それにしてもあの時あの場所で行為を重ねていい筈がなかったのだ。
いくら再び熱を持ってしまった自身を抑える為でも。
「…くん!」
「え、あ?」
目線を落としたまま考え事をしていた為、月らしくもなく電柱にぶつかる所だった。それを腕を強く引いて貰った事で逃れる。
「私より月くんの方が危ないですよ」
「…うん」
自然に止まってしまった歩みを再開させようとしたのはえるの方で、思わず月の腕から離れる手を掴んでしまったのは、やはり冷静さを取り戻していないからだろう。


どうやら僕はおかしくなってしまったらしい。


…………………
■あとがき
ここまで読んで下さって本当に有難うございました!!
異様に中途半端ですが、『ひぐらしの鳴く朝』はこれで終了です。
次回からは、続きの『ひぐらしの鳴く前に』を連載したいと思います!(終わってないじゃん…)
月くんの心境が大きく変わりました、ってことで、一応月くん視点の話は一旦終了…という事で…
次からは、L視点の話が続きますが、大きな注意があります。
三角関係とか、別れたりとか、一瞬でも照Lがダメだという方はここで、「月くんが恋の気配に気付いたのね!」って事で読むのをやめておいて下さると嬉しいです…!
とりあえず、「照L!?なんじゃそら!…とりあえず見てやってみるか」と思っていただければ、それはそれで嬉しいですが、怒られても、路線変更は出来ませんので、宜しくお願いします…。(ほんとうすみません)
それでは、一応、ここまで本当に有難うございました!!
dataup2006.12.18


続編・ひぐらしの鳴く前に


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