泣きはらした顔で登校なんて絶対に嫌だと、
そんな下らないプライドに少しだけ救われた。


【ひぐらしの鳴く前に】


「…お早うございます」
早朝。
一睡も出来きなかった為、校門が開く前から学校に出向いた。
えるが月とどうなろうと、地球は回るし朝は来る。勿論、文化祭前の生徒会の忙しさだって変わらない。
いくら考えても結論が変わらないのならば、考えるのを止めたかった。
だから何か一人で没頭できるものが欲しくて、こんな時間から生徒会室に出向いたのに既に先客がいる。
「ああ、おはよう」
簡潔な挨拶に、えるは唇を引き結んだまま溜息をつく。
「もう少ししたら、お前達の教室に出向こうと思っていたところだ」
わざわざ教室まで確認しに来るつもりだったのか、と魅上の熱心さに思わず呆れた。
この場合、えるでも月でもいいのだろう。
結果さえ聞ければ同じだろうと思うので、魅上に『別れたのか』と言葉に出される前に口を開いた。
今は、その言葉を聞きたくない。
「心配なさらずとももう大丈夫ですよ。…ですが私まで会長と、というのは…。監視の為に必要なのですか…?」
少しだけ言葉を濁しながら、結果を報告する。
返事がすぐに返って来なかったので視線を上げると、魅上が少しだけ驚いた様子でえるを見つめていた。
これは、素直に別れた事に対しての驚きなのか、月に『えると魅上が付き合う形をとる』と言った言葉の真意にえるが気付いた事に対する驚きなのか。
いくら恋などでは無いと月が言ったとはいえ、あんな風な独占欲を抱く相手を月がフリーにさせる事にイエスというはずがない。
だからそれを考慮して月を安心させる為に言った言葉に、とれる。それにニュアンスではそう聞こえるように告げられた。
だが、真意は隠れてこそこそと関係を繋いでいるのではないか、それを監視をしやすくする為に告げられた言葉なのだと容易に推測がつく。
「…そうだ」
魅上の返事でやはり後者だと判断する。
「なら仕方ありません…」
「そうか、では時間までお前にはこちらの処理を頼む」
相変わらずの無表情で魅上が書類の束を差し出す。
「文化祭が終わるまでは、この時間に来るように」
さらっと言われて、えるは既に書類に視線を戻した魅上をどうしたものか、と見下ろした。
これでは一応でも『彼女』というより、駒使いだ。…まあ役員として、本来の分ではあるのだけれど。
「…分かりました」
溜息交じりに返事をして、魅上と二人きりで雑用などを片付ける。
勿論無言だが、今のえるには有り難い。
誰と一緒だろうが、何かする事があった方が気が紛れるのは事実だ。
魅上が『これからもそうしろ』と言ったのはそれを狙ったのだとは思えないが、自分達の仲を壊したのは彼なのに、小さな感謝をしてしまう。
(今となれば、ずっとあのまま…、なんて。そちらの方が耐えられませんしね…)
月の気持ちが早急に変わらなければ、きっと近い内に気付いただろう。
そうなれば、同じ結果が待っていた筈だ。
好きになればなるほど…時間を重ねれば重ねるほど、おそらく耐えられないのだろうから。
「…これは全て会長が行いものなのですか?」
また、感情のループに陥っていたえるは、ふっと息を吐いて口を開いた。
「そうだ」
「…どう考えても生徒の役割では無いのですが。毎朝これを一人で?」
目の前の資料や、処理をする書類や、代議案などで埋められた机を軽く眺める。
普通ならここまでの量にならないのだろうが、完璧主義者の魅上は全てに目を通さないと気がすまないのだろう。
「ああ。…それに触るな。無駄口はいいから早く言われた仕事を片付けろ。」
顔は机に向かったまま、視線だけでジロリと睨みつけられた。
その冷たい視線に他の生徒なら震えあがる所かもしれないが、えるは特にどうとも思わず、触るなといわれた書類を捲った。
「最終見直し案みたいですけど…計算、間違っていますよ。バルーンの気圧計算がおかしいです。…そもそも何故専用ボンベを使わないんです?危ないですよ」
「……」
「経験よりも安全です。それでなくとも準備に追われて疲れています。会長がミスをするなら他の生徒はよりミスを起こしてもおかしく無いです。訂正して良いですね?後、他のファイルも見直します」
「了承する…」



…………………
■あとがき
明けまして、おめでとうございます!
本年もよろしくお願いいたしますね♪
…えるがLっぽくない…なぁ…
dataup2007.01.03


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