「お前がたまには感情的に動けと言ったのだ」


【ひぐらしの鳴く前に】


文化祭当日は初の共同文化祭で新しいイベントも盛りだくさん。実行委員と生徒会役員、勿論気合の入った生徒や十分に協力してくれた先生方のお陰で大盛況に終わった。
まあその分実行委員やら生徒会役員は常に走りっ放しな状況だったが、満足度は高い。
そして今日は振り返り休日だ。
だが、えるは裏門前にいたりする。
昨日の熱狂振りが嘘のように静まり返った学び舎を眺めながら、えるは時計を見る。
潔癖症な魅上が、昨日の大ざっぱな後片付けの点検をするという。それに手伝えと言われて、魅上を待っている最中だ。
(本当に静かですね…。昨日の事がまるで嘘のよう…)
ぼんやりと眺めていると、足音が聞こえて物思いから醒めた。
休日だというのに、キッチリ襟詰めまで止めた魅上が口を開く。
「来たか」
「来いと言ったのは会長でしょう」
「そうだな」
潔癖症らしい魅上が時間キッカリに現れて、裏門を潜る。
それに続いてえるも休みの学校に潜り込んだ。
いつもと同じ朝なのに、文化祭云々を抜いても、休日の静けさでは違う気がするから不思議なものだ。

「…整理されていない、減点」
守衛さんにはちゃんと断って、校内を二人で見回る。
その最中に一体何から減点しているのか魅上がぶつぶつ呟いていて、えるは些か呆れた視線を魅上に投げた。
気持ちは分かるのだが、魅上が言うと、何だか不気味な感じがするのは、何でだろう。
己の挙動不審さは棚にあげながら、魅上を手伝い一通り見回る。
最終的にお馴染みの生徒会室に行き着き、二人とも定位置に座って、明日が本番の後片付けの案を練った。
「一番疎かにしていたのは2ー4だ。後は1ー2、1ー3、2ー1、3ー3、4。ここを重点的に見回る」
「体育館は常に1人…出来れば副会長、校庭にも1人置いた方が良いですね。ここには勿論会長と、後は連携にもう一人。後は巡回でいいのでは無いですか?」
「そうだな。私との連携はお前に頼む」
「はい」
最近は常といっていい程一緒にいたので魅上の要求はだいたい分かっている。それにえるの自己流がついたとしても最初程魅上も口を出さなくなって来た。
「では今日はもう帰りますか?明日からは事後の報告処理もありますし…」
「…いや、守衛に頼んでコーヒーを貰って来い」
えるの提案に魅上が否を唱える事は多々あるが、その内容に少し驚く。
「…大丈夫、ですか?」
「…何がだ」
やはりいつもと同じ不機嫌そうな声に、えるは微笑む。魅上はそれに更に表情を険しくした。
「早く行け」

最早顔馴染みの守衛さんにお願いしてコーヒーを分けて貰い、生徒会室に戻る。
「お疲れ様です」
空いた時間にまた仕事をしている魅上の前にコーヒーを差しだした。
「砂糖は一つで宜しいですか?」
「ああ。…お前はまた5本も入れるのか」
「いえ、今日は奮発して7本です」
「……」
さらさらとシュガーを足すえるに、異星人でも見るような顔で魅上が視線を寄越す。
「私はこれくらいが丁度いいのですけど…一口飲んでみます?」
差しだした容器を魅上は冷たく睨む。
まあ冗談なので、手を引っ込めようと思った瞬間、魅上の手が伸びて来た。
「貸せ」
提案した手前、貸せと言われれば貸さないわけにはいかない。魅上の手に紙コップを渡してやると、毒でも飲むような顔をして口をつける。
「…人間の飲むものじゃ無いな。体を壊す前に本数を減らしておけ」
トン、と音をさせてカップが帰ってくる。
「忠告だけは聞いておきます」
「何故お前はそういつも逆らうんだ」
「会長だって私のいう事ちっとも聞いてくれないじゃ無いですか。お互い様ですよ」
言い捨てて、ずずず…と甘ったるいコーヒーを啜る。
だって、こうでもしないとやってられないのだ。…特に今日は。
二人でいる時は不機嫌そうな顔がノーマルな魅上が、飲み干したカップを机に置いて立ち上がる。
えるが飲んでいる間に資料でも取りに行くのかと思えば、突然カップを奪われた。
「返して下さい」
「こんなものを飲むから頭が回らなくなるんだ」
「私の勝手です」
魅上に負けないくらいに不機嫌な顔を晒して、ずいっと手を差し出すと、それを無視して、魅上が残りのコーヒーを飲み干した。
「…甘いにも程がある」
思わず驚いてぽかんと見上げるえるの肩に手がかかる。
いつも真一文字に結ばれた唇が、強引に押し付けられた。



…………………
■あとがき
ん。
早ぇ…。展開早ぇええ…!!!
本当はもっとハートフルな(?)文化祭の中の出来事とか書きたかったのですが、私の中の月Lと照Lのテンポを考えると…あえなくカット…ぐすん…。
ま、そんなにイイ思いつきもなかったというのが本音なのですが(え)
しかし、えーと、困りました。
何が困ったって、次回の更新です。
…困った。非常に困ってしまってワンワンうわわ〜ん…(涙)
とりあえず、色々削りまくって、削ったものを書き直して、裏作ってアップしようかなーと考えております。うん。
…もそっと考えるとします…。
dataup2007.01.12


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