固い唇が触れ、唖然とする。
唇が触れたまま上着の裾から手が侵入して来て、我に返った。


【ひぐらしの鳴く前に】


「止めて下さい!」
はっと我に返って魅上を突き飛ばし、えるはぐいっと手の甲で唇を拭った。
「帰ります!」
ジロリと睨みあげながら、魅上から距離をとろうと勢いよく席を立つ。鞄を取った所で魅上に腕と取られた。
「…何をするんですか…、離して下さい」
思いっきり不機嫌にその手を払おうとした所で腕を捻り上げられて、えるは少しだけ息を詰まらせた。
「たまには感情的に動けと言ったのはお前だろう。慰めてやろうと思っただけだ」
「結構です。…それに貴方は慰めようと思う相手の腕を捻るのですか」
「場合によってはな」
己の肩越しに魅上を見上げ、冷静に告げるえるに、居直り強盗と大差無い台詞を魅上が吐き出す。
「学校です」
「今日は休日だ」
「このような行為は愚かだと」
「分かっている」
「では何故」
「興味が出た」
相変わらず醒めきった表情で魅上がえるを見下ろす。到底その言葉にそぐうとは思えない声と顔で魅上が続けた。
「お前の言った感情が、どういったものなのか、試してみたくなった」
「では…私以外の女性とお願いします」
捻られた腕を庇いながら体を出来る限り離す。
「私は好きでも無い相手とはしない主義です」
「だが、夜神はもう心移りしたのだろう。お前だって昨日見たのだろう?違うか。」
「………!」
体が凍って、思わず動揺を隠し切れずに魅上を見返した。
えるが魅上の前だというのに砂糖を2本増やした理由を突きつけられて、瞳が揺れる。
昨日、文化祭終了間近の事だった。
魅上と巡回していた際に偶然見てしまったのだ。
キャンプファイヤーでざわつく校庭から離れた渡り廊下のはずれの死角。
月の後姿と、高田うっすらと見える横顔。
その時はキスをしていただけだったが、その後どうなったのかは分からない。
だが、セーラー服の上着の下、背中を撫でるように手を添えていたように見えた。だとすればその後の事は、想像に難くない。
えるも身に覚えがあるのだから。
「だから慰めてやると言っている」
自から月に『高田と付き合えばいい』と言ったが、いざ現実を目にすると胸が引き千切れそうでどうしようも無くて…。
「…いりません」
ありありと脳裏にフラッシュバックした光景に、気概を挫(クジ)かれて悄然と呟く。
魅上に弱みを見せるのは癪だが、昨日の今日では己を立て直すことなんて不可能に近かった。
(…今も、高田さんと一緒にいるのかと…思うだけで…)
「私達は曲がりなりにも付き合っている」
不安定な心に、冷然とした声が降ってくる。
それに在りし日の光景が甦った。
「…それじゃあ月くんと同じじゃないですか…」
月に初めてキスされた時の光景が頭によぎる。
『付き合っているんだから当たり前だろ?』と月はえるに口付けた。
「…そうか」
パタパタと固い床の上に水滴が跳ね返った。



…………………
■あとがき
あまりにも長くなったので、エロは次回に…なりましたー!(期待してくださった方ごめんなさいって事で同時にUP)
と、いいますか。ほら、ね?あんまり合意の上じゃないので…分けたほうがいいかなーという事で…うん。
この回で書きたかったこと…何故、腕を捻るんだ、照よ!(笑)が書けて満足です(笑)
次は裏なので、お嫌いな方、お気をつけて…。
dataup2007.01.17


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