「…私はもっと奇天烈な料理が出てくるのかと思ったぞ」 「やれば出来るんですよ」 【ひぐらしの鳴く前に】 3日に一度家政婦が確認しに来る魅上のマンションは、魅上の意向により調理したもの以外の食材も冷蔵庫にきちんと収まっていて、成り行きでえるは遅めの朝食を作る羽目になってしまった。疲労の強く、痛む腰を押して。 まあ、パンと目玉焼きとサラダとスープでは『やれば出来る』と自慢をする程度のものでは無いと思ったが、そこは言葉の綾、だ。 最後にえるだけ甘ったるいコーヒーを飲み、魅上の勉強する様を少し眺めてから帰宅しようとすると、小さな箱を渡された。どうやらクリスマスプレゼントのようで、少し困る。えるは用意していない。 だが強引に渡さた。それから流石にセーラー服のままでは色々と難があるからと、借り受けた黒のタートルネックのセーターの上から渡された箱の中身―シンプルな細工のネックレスをつけられた。一体どんな顔をしてプレゼントを買ったのか想像すると少し面白い。はっきり言って、似合わないとしかいいようのない、それが面白くて少しだけ笑った。 そして、冷たい風の吹き荒むマンションの外に、覚束ない足を交互に踏み出した。 回数を重ね過ぎて、足の感覚がおかしい。 (執着心は人一倍ですね…) コートから見える脚にさえキスマークがついている。 全身を見ると異様な数がついていて、何かの病気のようだったな、とぼんやりと思いだした。 魅上らしく無いし、らしいといえなくも無い。 月と別れさせる為に、わざと二人っきりにさせて人の情事をじっくりと観察するくらいだ。一度執着心を持ったものにはとことん思うようにするのが主義らしい。 通り道、街並みはまだクリスマス一色で、ちょっとしたイベントなどの行われる広場には大きなツリーがそびえ立っていた。 キラキラと飾りが光りを跳ね返して、思わずぼうっと眺め上げた。 「あれ?竜崎じゃん」 「!!」 背後から声をかけられてビクリと体を竦める。 「買い物?…って、何で学生鞄…アッ!」 昨日声をかけてくれた2年生役員の美咲が声を大きな声を上げたので思わずその口を塞ぎたくなった。 「もしかして会長ん家に外泊?!」 だが、そんな事をするわけにもいかないので人差し指を立てて見せたが、効果は期待出来ず、甲高い悲鳴が上がった。 「え?!あ!?えーッ?!」 「先輩…!」 大きな声に制止の声をかける。街の人の視線が流石に痛い。 「え?あ、そっか。ごめん…!…でも、え、そーなんだ。自分は滅多な事すんなーとか羽目を外すなーとか言っておいて…」 「いえ…あの…」 「で、どうなの、外泊っていうことは…したの?気持ち良かった?」 あからさまに聞かれて、得意のポーカーフェイスが保てず、真っ赤になって慌ててしまう。 「きゃーっ!マジで!?あんな唐変木みたいな人が…!想像つかないけど!…確かに竜崎、真っ赤になっちゃって…、…そうやって見つめたら口説かれたの?」 「…勘弁して下さい…!」 悪い人では無いが、こういう所はとても苦手で、逃げる為の口実を急いで探す。これ以上根掘り葉掘り聞かれてはたまらない。 「…!」 そこで、見つけてはならないものを見つけてしまった。 光りに透けると蜂蜜みたいな透けるブラウンの髪に、一人ている時は少しつまらなそうに目を伏せた、綺麗な顔。睫までもが濃い茶色だという事をえるは知っている。 ずっと遠目だったにも関わらず、その姿を捉えてしまって嫌になる。しかも見つけた理由が、月が制服姿で目立っていたからではない。 「え?なになに?もしかして会長?」 「いえ、違いました…。ところでどこかにお出掛けなのでは?」 えるの静かな問いに美咲が人ゴミの中を探すのを慌てて止めた。畳みかけるように「待ち合わせですか?」いうと時計を見てアッと声を上げる。 「げ、もうこんな時間!竜崎またね!」 腕時計と駅までの混み具合を確認して走り去って行く。 その行動が目についたか月が顔を上げた。 「……」 視線が絡まる。 そして無かったかのようにフイと視線を逸らした。 すっと横切って消えて行く。 えるは 背後の高いもみの木を背にして目を閉じた。 ………………… ■あとがき もしかしたら、月と一緒にもみの木を見上げる事もあったのかもしれない、冬の日、みたいな! やっぱりこっぱずかしい感じの水野です、こんにちわ。 美咲さんはあれですね、適当に名前をつけたオリジナル人物ですが、性格的には松田女バージョン☆な感じです♪(笑)本当は桃子(松田が桃太だから)にしても良かったのですが(笑) 普通に松田さんは総一郎パパに連れられて、夜神家に訪れてんだろうなーと思ってやめました。うん。いや、だってさ、もし第3部に突入しちゃったら(ヲイ)困るしさ! いえ、第3部の大人バージョンなんてさすがに書きませんけど…、予定は未定ですから…!(笑) で、次回からが高校生バージョンです。 あああ、照が卒業した後の、月が会長、えるが副会長な、こう、「ああああ!もどかしい!!」な感じが書きたかったです…!でも、私の能力的に、そこをいれながら、話を展開させる器量とアイディアのストックとかが足りませんでした…うう…。出来たら2部が終わった後、番外編で書けたら…いいな。(書けないけど。) dataup2007.02.08 next→ …………………… [0]TOP-Mobile- |