どうしようも無かったのか。
いつ気づけば、間に合ったのか。


【ひぐらしの鳴く前に】


「ぁ、ぁん!」
月はえるの甘ったるい喘ぎを聞いて満足する。
「える、好きだよ」
ナカに自身を埋めたまま、愛おしく囁くと、えるはその頬を薔薇色に染めて恥ずかしそうに「大好き、です」と囁き返す。
月の胸は、えるに触れているだけで、ドキドキと高鳴る。
「月くん、愛してます」
と言われ、抱きつかれると、狂ってしまいそうだ。
「月くん、月くんっ」
愛しい液で濡れた、えるのナカを突き上げる。
奥のいいところを抉るようにすると、一際高い嬌声が漏れた。
月はえるのひとかけらも逃がさないように、ベッドに押さえつけて、抱きしめ、唇を塞いだ。
何一つ渡しく無い。
えるは月のものだ。
それはあの蝉が鳴く、運命の日の前からきっと定められていて、だから出会ったのだ。
「んっ…んっんっんぅ」
月くん。
と耳に聞こえない声が聞こえる。
「んっんっ、ふぅっ」
紅を掃いたような唇が、えるの柔らかい胸が、ぎゅっと月を抱きしめ返すその腕が…。
きつく締めあげるその膣も。いつも月だけを綺麗に映しだしているその瞳も!
『月くん。』
愛おしそうに繰り返される自分の名前を、何度も聞いた。
『私と一緒の鼓動です』
月の手に添えて、小さな胸に触れさせて。
『月くん』
脳裏からその声が消えない。
その暖かさも、柔らかさも、愛されていたんだという記憶が一切、色褪せない。
「んぅ」
舌を絡める。
えるの指が月の髪を掻き分けた。
(そういえば、えるはキスしながら抱かれるのが好きだった…)
もうそろそろ絶頂が近い。深い振動にえるが先程から何度も軽い痙攣を繰り返す。
「んんんぅっ!」
大きく背中がうねり、同時に達した月の精を受け止める。
「…っは、える…」
唇を離すと、銀糸で繋がる。息の上がったえるが、濡れた瞳で月を見上げてキスをねだった。
「…照、さん」



「っえる!!!」
自分の叫びで目が覚めた。
「…夢?」
両手で顔を覆って、張り裂けそうな鼓動を落ち着かせようと息を吐く。
(今のは夢だ…現実じゃない…。夢…。夢なんかじゃ無い、だろ…!!)
神経を鎮火させる為に言い聞かせた言葉で、バカな真実を目の当たりにする。
確かに今のは月の夢だが、現実にえるは魅上と付き合っている。
そして…。
(何で気付かなかった…)
今になって自覚した所でもう遅いのに、昨日のえるの言葉で逃げられなくなってしまった。
えるの事を、そう言った意味合いで好きなんじゃ無いか…と思いかけたのは、月がえるの手を離した時だった。
涙を見せたえるに戸惑って、その手を離してしまった時。
あの時、酷く動揺しながら、その涙の意味を考えた。えるの総ての言動の意味。
(…辿りついたのは…、えるが僕の事を好きなんじゃないかという事…。…でも僕は…)
どれ一つをとっても、えるが月の事を想っているが故の行動ばかりだったが、勘違いの可能性を信じたかった。
(…僕は…怖かったんだ…)
少しずつ、えるの事しか考えられなくなる自分が恐ろしかった。
傍にいればどこであろうと求めてしまって、いつか、全てを犠牲にしてえるを閉じ込めてしまいそうな自分が成長するのが怖かった。
せめてただの肉欲と、幼馴染みに対する深い情から来るものだと、すり替えて。そんなギリギリのラインを保たなければやっていけなかった。
えるが月の事を同じくらい(もしかしたらそれ以上に)好きなんだと知ったら、抑えられなくなりそうで、直視できなかったのだ。
(…何で気付かないかった…んじゃ無い。…どうして、あの時に一目惚れなんかしてしまったんだ…)
もう少しゆっくりと育んでいたら、こんな事にはならなかったのに。
(…僕はもし、あいつが男でも、今と同じくらいに思うだろう…)
それくらい衝撃的に、一目で惚れてしまった。
だから小学生の当時から、月は目を向けないようにしていたのだ。
今ならはっきりと分かる。
自己暗示だ。
(皆が『えるちゃん』と呼んでいて、気付かない筈がないよ…)
男だと思い込ませていた時でさえ、密かに可愛いと思っていたのに、それが女の子のえるちゃんでは、手を出さずにはいられなくなる。
(…える)
だから暗示をかけたのに、厳重に隠した思いは容赦なく月を追い立てた。
初めて夢精した時、えるで抜いたのだ。
成長したえるが、「月くんならいいですよ」と惜しげも無く、服を脱いでいく夢だった。
朝目覚めて、覚えていない事にして、丁度祖母が亡くなったのをきっかけに、逢いにいかなくなった。
それでなくても危うい均衡だったのに、好きだった祖母が亡くって辛い思いをする筈だった月は、慰めるえるの体温の方が気が気じゃないという程になっていたから。
でなければ、大好きなえるに逢いにいかない筈が無い。
そうまでして自分の狂気でえるを壊してしまわないようにしたのに、失っては意味がない。
もう離れて、3年が過ぎた。
取り戻せる確率は皆無に等しい。

でも。

(今すぐお前を抱きしめたい…!)



…………………
■あとがき
あまりの恥ずかしさにのたうつ水野です。こんにちわ。
何て都合が良すぎる上に、ありきたりな…!ぎゃー!(恥)
まあ、いいか。(転換早過ぎです)
因みに最初の方は月くんの夢なので、いつもよりも甘め(当者比(笑))にしてみました。
どの辺が甘いかと申しますと、「ぁ」と「ん」をくっつけた辺りとか、(裏で無い限り普段はやらない)『薔薇色の頬』とかの辺りでしょうか?(よく考えたらいつもとそう変わらない気もする。)
んで、また月くんの夢なので、えるは照のことを「照さん」と呼んでいますが、実際にはまだそう呼んであげてないみたいです。(時折せがまれて…はありそうだ)
そして、私の中で結構な割合を占めていた「えるちゃん」の伏線(もどき)(一部で「月くんのおばあさま、いつも私の事を『えるちゃん』とおっしゃっておられたのに…」のトコ)を消化できて結構ほっとしています。

dataup2007.03.01


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