―COUNT3―


 がやがやと陽射しの下で部員がさざめいている。
 俺はその中で一段と険しい顔の犬飼に歩み寄る。

「犬飼」

 俺が呼んでも犬飼は顔を上げない。

 どうやら気付いていないようなので、もう一度、仁王立ちして、声をかけた。

「犬飼!」

 今度は素直にむくっと犬飼が顔をあげた。
 目の下には隈。
 なんとも酷い顔で俺はむうっと顔を顰めた。
 何〜?もうすぐ大会も始まろうっていうのに、何してんの〜?コイツ。あ、分かった夜の特訓とか言ってひっそりこっそり何かやってんだぜ?コイツ。でもすんげえ、本末転倒っぽいぞ、お前。しゃきっとしろよ!
「大丈夫ですか?」
 俺の隣に立った辰羅川が心配そうに犬飼を見ていた。
「そうだぜ〜、バッテリー心配させんなよ、犬!」
 俺が喋り終わると少ししてゆっくりと口を開いて今度は目に手を当て、空を仰いだ。
「・・・・とりあえず・・・・」
「・・・もう、あがりましょう、犬飼くん。今のあなたに必要なのは休息です・・・。違いますか?」
「犬っころのくせに、自分を追い詰めるからだよ!とっとと帰って寝やがれ!その代わり俺がばっちりやっといてやるからよ!」
 俺はにかっと笑って犬飼に言った。
「・・・・」
 犬飼の目は何も移さない鈍い色で俺達を素通りして溜息をついた。
「ほら、猿野くんもそういうアナタは見たくないはずです」
「そうよ〜、こんなへしゃげた犬っころからかっても楽しくもなんにもねーもんなー」
「・・・・分かった。帰る」
 やっと素直に帰宅の路につく宣言をした犬飼を俺は背後から、見送る。
 痛い気持ちを抱えて見送る。
「犬飼」
 俺は悲しい気持ちで声をかけた。
 お前、どうしたんだよ。
 そんなにもやつれて。
 そんなお前、お前じゃねえよ。
「犬飼」
 俺は途方にくれて犬飼を呼んだ。
「犬っころ・・・」

「猿?」
 涙が零れそうだった。
 それを隠すために俺は無理矢理笑った。
 そうでないと、涙が零れてしまいそうだったから。

「どうか、しましたか?犬飼くん」
「いや。なんでもねえ」





 俺は魔法をかける。

 俺の全てでかける魔法。

 どうか、
 振り向いて。


////To be continiued/////

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