「2ヶ月・・・持たないだろうって」
「・・・・・そんなに」
「癌なんだって」
 俺は瞬きをせずに犬飼を見つめた。
 犬飼の強張った顔が街灯の光りに影を落としながら見えた。
「手術も出来なくて、手遅れだってさ」
「テメーだったら・・・」
「病院にいたって一日二日しか違わないんだったら、俺はお前の傍にいたかった」
「・・・・」
「俺を見て」
「・・・」
「死ぬまでの間、俺だけをみてくれよ」
「・・・・」
「俺を好きだって言ってくれるんだったら、俺を抱いてくれよ」
「・・・・」
「今すぐ」
「・・・・」
「死んでしまうやつなんか抱いたってよくねえって思うし、お前が辛いだけってのはわかってるんだけど。お前が俺の事好きだって言ったから、我慢出来なくなっちまったじゃねえか・・・・」
 俺の体に強く残るように。
 抱いて。
「っクソっ!!」
 犬飼が噛みつくように吐き捨てた。
 それから強い力で抱き寄せた。
 手から、ぽろりと零れて缶が転がる。
 とくとくと命を排出していった。
「・・・・っくそ・・・・・」
 ぎらっとした射殺すような目で見つめられて俺は思わず微笑んだ。
 そこには俺しか映ってなかったから。
 俺は安心して目を閉じた。
 キスが落ちる。


 そこに全部残して。
 俺の体に全部焼き付けて。
 消えないように。
 強く残るように。

 夜陰の月が俺達を見つめている。
 俺の罪を見つめている。
 俺だけの罪。

「あ・・・・あ・・・・」
 固いベンチの上で俺は息を漏らした。
「・・・いぬかい・・・・」
 初めての感覚に身を捩って泣いた。
「いぬかい・・・・」
 怖かったし、痛かったけれど、俺は嬉しかった。
 嬉しくて泣いて。
「・・・・もっと・・・・」
 焼きつくような痛みが嫌でもそこを意識して良かった。
 犬飼と繋がっているのだと思って、良かった。
 俺は思いっきり犬飼の背中に爪を立てた。
 お前にも俺を刻みつけるために。
 少しの間だけでも所有の証をつけるために。


 俺は今から罪を犯す。


////To be continiued/////

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