―COUNT1―


 俺は罪を犯した。


 やっぱり抱いてくれだなんて言うべきではなかった。

 やっぱり、犬飼に好きだと言うべきではなかった。

 それでもお前はそれでいいのだと言った。


「猿野っ」
 試合中に倒れた。
 8回裏。
 ああ・・・、と俺は思った。
 だから俺は詰めが甘い。
 後一回なのに、お前の背中を守ってやれない。
「・・・・大丈夫・・・・なんでもねー・・・・」
 やはり気力だけでどうにでもなるもんでもなかった。
 俺は激しい痙攣と頭痛をやり過ごすと、何事かと駆け寄る部員に弱々しく言った。
「済んません・・・シシカバ先輩・・・後、頼んます」
「・・・・猿野オメー・・・・」
「犬飼、最後まで投げろよ・・・」
 犬飼に言った後すぐに小康状態から抜け出して俺は地面の上で体を折った。
 監督の救急車を呼ぶ声が聞こえてから、俺は目を閉じた。


 なんて顔してやがる、犬飼。
「大丈夫っすか、犬飼くん」
 子津が心配そうに犬飼に声をかけていた。
「そうだぜ、犬飼。俺がちっとばかしぬけるからって、何もそんな」
「・・・・犬飼くん・・・・」
 辰羅川もどうしていいのか分からないって感じで犬飼に声をかけるのを聞いて俺は溜息をついた。
「仕方ねえ犬だな・・・」
「最後まで投げるって約束したんでしょ・・・?」
「そうだぜ、何へこんでやがる!」
「・・・・投げる・・・・」
 やっと立ちあがった犬飼に俺はほっと息を落とした。



「天国・・・・」
「・・・・・」
 俺が倒れた後、搬送された病院に、沢松と犬飼が現れて俺はにこっと笑った。
「わりいな、こんな時に。ってか沢松梅さんに怒られるんじゃねえの?」
「バカやろう!んな事で梅さんが怒るわけねーだろっ!!」
「まあ・・・。うーん。でも犬は監督に怒られるだろ」
「・・・・・」
「今は余計な事考えるなってさ」
「・・・・・」
「ぜってースタメン落ちすんなよ」
「・・・・・」
 犬飼がずっと黙っていたせいか、暫くして俺の容態を確認すると沢松は医師の所に行ってくると言って部屋を出て行った。
「・・・・逝くな・・・・」
 沢松が出て行ってから暫くして、犬飼がぽつっと呟いた。
「どうした〜、犬っころ」
「逝くなって言ってる。テメーは奇跡の一発屋なんだろうが・・・・奇跡でもなんでもいいから起こしやがれ・・・・」
 犬飼の言葉に俺は緩く笑った。
 奇跡の一発屋、ね。
 確かにね。
「バカだな、犬」
 俺は俺の上に突っ伏したまま微動だにしない犬飼の銀色の髪の上に手埋めた。
「起こせる奇跡なら絶対起こす」
 俺は笑ってぽんぽんと、犬飼の頭を撫でた。
 諦めたら、終りと言うことは知っているけれども、諦めなければ全てが叶うわけではないことを、俺は知っている。
 だから、全ての力を使って魔法をかけたのだから。
「そういや、犬っころ。来世って信じてるか?」
 俺は犬飼に語りかける。
「んな事しらねえ・・・」
「よくさ、来世でまた会おうな、っていうじゃん」
「来世なんてまってらんねえ」
 俺は犬飼らしい犬飼の答えに喉を鳴らして笑った。
「俺もそう思う。
 俺はさ、思うわけよ。
 お前の魂が好きだから、きっと、別の場所で別の形で会ってもきっとお前を好きななるって思うわけ。
 でもさ。
 でもよ?
 別の場所で、別の形で会ったって、それは今の俺と、今のお前じゃねえわけだよな。
 俺は我侭だって言ったよな?
 俺は我侭だから、お前を好きなのは今の俺だけがいいわけ。
 例え、俺が死んですぐ転生とかしたとしてさ。
 例え、今のお前が成長した姿に出会って、恋したとしてもよ?
 俺はそんな事は嫌なんだよ。
 お前は?」
「・・・・俺は、お前がいい」
 犬飼が顔を上げて俺を見つめた。
「お前が逝くしかねーって言うなら、すぐに俺の前に来い。俺は、今のお前がいいけど、お前が逝くしかねーっつんなら・・・・。それがお前なら。俺は絶対間違えねえ」
 駄々っ子のように繰り返す犬飼の頭を俺はぽかりと殴った。
「仕方のねえ犬だなあ」



 だけど、俺はお前の願いは叶えないんだ。
 俺は我侭だから。
 間違えないって言っても。
 だってそれは俺ではないのだし。
 俺は俺以外の誰かにそんな権利を渡さない。
 俺がお前の中に『いる』のに、そんな権利は渡さない。


 お前はきっとずっと俺を忘れないだろうって思う。
 抱かれた日にそう感じた。
 何かを堪えるようにして抱いた犬飼に対してそう思った。


 犬飼。


 悪いな。


 お前が俺の『魔法』で好きって言ったんじゃなかったから。
 俺はこの魔法、をかけるんだ。



////To be continiued/////

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