『前略



 前略、犬ころ様。

 ご機嫌は如何だね、こげ犬。きっと今頃はすっきり気分爽快!なのではないかと思う。
 っていうか、お前の事だから、この手紙、即ゴミ箱にでもいれてそうだな!まあ、別にそれでも構わないんだけどよ。
 だったら出すなって?バカだな。出すことと、読まれる事を期待すること、読まれないことを期待する事は違うんだよ、犬。どうせ、お前には分からないんだろうけどさ。
 え?何?態度がでかい??そりゃ俺の専売特許だから諦めろよ。
 早く用件を伝えろ?
 相変わらずせっかちだよな、お前。
 何?どうしてお前の言いたい事が分かるのかって?
 そんなん決まってるだろ。ずっと見てたんだから、お前の事なんかお見通しさ。
 お前がこれを見てないことなんか承知済み!でも。ゴミ箱はきついなあ。・・・でも。読んで欲しくもないんだよな。
 矛盾してるだろ?でも人間大抵そんなもんだ。矛盾はどこかしら生まれる。迷いが全く無い人間なんていないからな。
 まあ、この手紙はそういう事。矛盾ばっかりの手紙。後悔ばっかりの手紙なワケ。それでも俺の気持ちだけを綴った手紙なワケ。
 俺は犬飼に魔法をかけた。
 俺の事を見てくれる、そんな魔法。
 俺の事だけを見てれくれる、そんな魔法。
 俺にだけ、いろんな顔を見せてくれる、
 傍にいさせてくれるそんな魔法。
 俺には時間ってもんがもう無かったから、卑怯かな〜とは思ったけど、使わずにはいられなかった。
 何を捨てても。
 ただ、うだうだと病院のベットの上で目を瞑るだけの終り方はしたくなかったんだ。
 お前との想い出が欲しかった。
 お前との想い出を抱えて、死にたかった。
 でも、お前はそれじゃあ後味悪いだろ?
 残される者の痛みは分かってるつもりだ。
 それが、かけがえの無い物であるだけ。
 それが、かけがえの無い人であるだけ。
 失った時の辛さや、苦しさは半端じゃないよな。
 だから、俺は魔法を使ったんだ。
 俺に興味も無い、お前を振り向かせ、俺を傍にいさせて、俺だけを見て、それから、まあさ。キスなんかもしちゃったりして・・・。
 まあ、だから。
 そんな事をね。
 でもそれは俺が魔法をかけた結果であるから、術者である俺が死んだら、犬飼はそんな気持ちをすっぱり忘れるはずだったの。
 俺は死んでまで、強引にお前を縛りたくないのさ。
 だって、俺が強制的にかけた魔法で、そこまで縛ったって仕方ねえじゃん。
 むしろその時間犠牲になった事に同情を感じるね。
 まあ、だからさ。お前は俺が死んだら、何であんな猿と一緒にいたんだろう?って感じで思って、猿野天国はもう死んでいないのか、あんな猿だったけど、いなけりゃ少し淋しいもんだなって感じてくれりゃ、俺としては良かったわけ。
 なのに。
 なのにさ。
 お前も俺を好きだなんて言ったから。
 お前は俺の魔法をかける前から、俺の気持ちに答えてくれていたなんて知らなかったから。
 俺は全てにそれを費やす決意をしたんだ。
 最初は俺を見て欲しくて、傍にいたくて、使った魔法だった。
 でもお前が。
 俺をなんかを好きだって言ったから。
 俺はお前に抱かれたくなっちまった。
 普段エロい悪事ばっかり働いてた俺だけどさ。結構こう見えてピュアなのよ。俺様。
『プラトニック』なーんてね。でも別にそれだけでも良かったんだ。実は。
 お前が俺のことだけ、見て。
 それから、俺の傍にだけいてくれたら。
 犬飼が俺なんかを好きだっていわなきゃ。それで。
 なのに、お前が好きだなんて言ってくれるから。
 俺だけを見て欲しくて、
 俺だけに刻んで欲しくて。
 あんなこといっちまった。
『抱いてくれ』
 だなんてさ。
 嬉しかった・・・・なんて言って信じるかな・・・?
 最高の想い出・・・なんて言ったら怒られそう。
 潮の味がした。
 お前にしたキスの味。
 俺は一生忘れない・・・ってバカだな、俺。もう死んでるっつーの。
 じゃ、改めて訂正。
 俺は、俺という全ての物が無くなるまで、その事を忘れない。
 犬飼冥を忘れないと誓う。
 犬飼冥と過ごした日々を忘れないと誓う。
 後は・・・。この手紙に俺の全ての気持ちを綴って、全部お前にやるよ。
 俺の気持ちと勇気と奇跡の全てをさ。

 あ、そうそう。話がずれちまった。
 なんせ、思いのまま書いてるからな。
 そう、俺は俺の気持ちを勇気と奇跡の全てでお前に魔法をかけました。
 OK?
 お前に俺の全てを忘れる魔法をかけました。
 俺が死んだら、俺はあの世とかいうもんの所にいかなきゃいけない日まで、傍にいる。
 傍にいて、魔法を使い続ける。
 振りかえってってさ。
 俺だけを見てってさ。
 俺だけを想ってって。
 お前はきっと俺の願いを叶えてくれる。
 だってお前は魔法なんか使わなくても、俺のことを見てくれた。
 俺のことを抱き締めてくれた。
 好きだぜ?犬飼。
 ・・・なんか。照れるな・・・面と向かって告白ってのは。
 でも、もっかい言っとく事にする。
 俺にはもう言ってやれる事はないから。
 好きだぜ?大好き。
 愛してる・・・。
 ・・・。
 やべえ、今のナシナシ!
 なんつーか・・・泣けてきた。
 
 それでまあ、俺はお前の事がどうやら、とても好きだったようなので、俺の全てで魔法をかけることにする。
 見なくても分かるさ。
 お前が、俺が死んだ後にどれほど苦しむかなんてさ。
 きっと命賭けてやってる野球さえ投げ出してしまいそうになるんじゃないかな?って思うくらいにやつれてしまう姿なんて・・・想像できないけど、分かってしまうから。
 俺、お前に苦しんでもらうために魔法をかけたんじゃなかったんだぜ?
 お前が好きだったから、
 お前の野球が好きだったから、魔法をかけたんだ。
 
 俺をその中の一つの摂理に加えて欲しかったから。

 でも敢えて俺はお前に魔法をかける。

 俺の全てかける魔法。

 お前、あの日に言ったよな?
 早く生まれ変わって俺の元に来いって。
 ごめんな、無理なんだ。
 それは俺が俺以外の俺に・・・はは、言ってることワケわかんねえ・・・・けど、まあそういう事。俺以外の俺にお前を渡したくないからであるし、
 この魔法は俺の存在全てをかけて行う魔法であるからなんだ。
 普通魔法ってのは、術者が消えてしまえば、解けるもんだよな?
 敢えてそれに反抗してかける魔法ってのは、俺自身を賭けるしかないんだよ。
 だから、お前が俺の魔法にかかった時には俺はこの世どころではなく、どこにもいないって事になるんだけど、俺はそれでもいいと思ってる。

 お前が投げてくれるなら。

 お前が投げ続けてくれるなら。

 あ、お前くれぐれも健康には気をつけろよ?
 食パンとコーヒー牛乳だけの昼メシなんて却下。
 食べちゃいけねえなんて、そんなせこいことは言ってないぞ?
 他にも食べろって言ってるだけなんだから。
 うん、それが遺言。
 決めた。
 健康管理をばっちりして、何歳になっても投げ続けろ。
 遺言終り。

 さて。それじゃあ、そろそろこっちも終りとする。

 お前がこれ見て混乱しないように、お前がこれを開けないことを期待しとく。
 お前の性格を読んでのことだから、これは今頃きっとゴミバコの中とは思うけど。
 そっと机の中にでも仕舞ってくれたら嬉しいと思う。
 きっと俺の気持ち、最後には分かるはずさ。
 これは俺の魔法じゃなくて、俺のお願い。
 捨てないで、読まないで、そっと気持ちの奥に鍵をかけるようにして、仕舞われておくことを期待する。

 それじゃ。
 そろそろ寝ることにする。
 グンナイ!犬ころ!
草々』


////To be continiued/////

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