新月の光りは満たされた。 全てが満ちて、消えていく。 貴方はその破片を集めて何をするつもり? ああ。誰かが駆けていったっすよ。 本当だね。あんなに急いで、どこに行ったっていうんだろう? そうですね・・・僕なら。 うん? 好きな人の所へ行ったんじゃないっすかね。 ふふふ。どうしたんだい? 別に・・・どうもしないっすけど。そう思いませんか? そうだね。一分一秒さえも惜しいからね。 僕は『今』幸せっす。 そうかい?嬉しいね。 その日猿野天国はぼーっと夜空を眺めていた。 天国にとってはこれは特別なことでは無く、ほぼ日常に近い習性であるといえる。 とは言っても、この行為が習性になったのは、高校に入ってからだ。 詳しく言えば野球部に入ってからで、更に語れば犬飼冥という人間に相対してからだろう。 とーってもふざけた冥なんて名前。それはふざけてる名前ではあるけれども、彼を表すにはとてつもなく似合った名前であると言える。 犬飼冥には夜が似合う。 夜に遭遇すると何故だか必ず犬飼を想像する。 その傍らで夜を払拭する朝日にような強烈な瞳を持つ彼を想って、天国はひたすらぼーっとしながら窓の外を眺めた。 『バカ猿』 彼がそう自分を呼ばわってから既に1月は経過している。 自分が彼をどう思っているかなんて、この夜空をぼーっと見ているだけで分かりそうなもんだ・・・なんて思ってから何感傷じみたこと考えてるんだろうな、と溜息をつく。 冴え冴えとした新月の光を浴びてから、天国は今日も窓を閉めようとした。 「猿・・・」 「は?」 突然、ショートカットの名前を呼ばれて天国は間抜けにも返事を返した。 声の聞こえる方に目を向けて絶句する。 人が浮いていた。 「・・・・」 窓を閉めようとする手がピタリと止まった。 人が浮いていた。 「・・・・」 厳密に言うと羽が生えていた。 黒い、羽だった。 そう・・・こうもりみたいな羽を持った人・・・。 「見つけた」 厳密にいうと・・・。 蝙蝠みたいな羽を持った・・・犬飼冥、だった。 「ななななななな!!!!!」 ついっと空に浮かんだ犬飼が天国の方へやって来て、天国は不覚にも動揺して声を震わせた。 自慢じゃないが、天国の部屋は地上から数えて15階。 ピアノ線はどこにも見当たりません。 ついでに犬飼がこんな事をして天国をからかう動機も無く。 「おい、お前」 「・・・・・は・・・・?」 「俺と一緒に来い。とりあえず」 「・・・・いや・・・・ちょっと待て」 だとしたら目の前にいるのは犬飼のそっくりさんで、しかも羽を持った人・・・と考えるのが自然(?)だろうと思い。それ以上にそんな事ありえるワケねえよ、と訂正する。 「・・・・」 律儀に天国の『ちょっと待て』発言に『待て』を遂行している目の前の人物に、天国は深く息を吸って聞いてみた。 「犬飼冥?」 「なんだ?」 普通に返って来た返事に天国はくらりと眩暈を覚えた。 「・・・・・」 「どうして俺の名前を知ってる?」 そして言い募られた言葉に混乱した。 やたらに『とりあえず』とか、『猿』とか呼ばわるヤツはこいつしかいねえ、とは思ったけれども・・・。 「・・・どうしてって・・・・」 同じ野球部だろうがよ。と返したほうがいいのか、どうなのか。大体今の状況が現実の範疇を超えていて、これはいつもの犬飼の皮肉なのか、ボケなのか、はたまた本気なのかが分かりきれずに天国は押し黙った。 「行くぞ」 「は?」 考え込んでる天国に犬飼はさらっとそう告げると天国に手を伸ばした。 「えっ?!えっ!!ええええっ?!!!」 抵抗をする暇も無く天国は犬飼の腕に軽々と抱えられて宙へと舞いあがった。 「ちょちょちょちょ・・・!ちょっと待てよっ、犬ッコロ!!」 「もうちょっと待った」 「はああっ?!っていうか、ぎゃあああああ!!」 天国の叫び声に犬飼がぴたりと空中で静止した。 「どうした」 「ううううううう・・・浮いてるんだけど?!」 「・・・どもるな。・・・ああ・・・浮いてるな」 「こっ・・・心の準備が・・・・」 「さっき待っただろ?」 「・・・・」 絶句する天国に心の準備はもう済んだのだと思った犬飼がぐんっと飛翔した。 「!!!!!(泣)」 ぐぐぐっと高度を増して地面から遠くなり、夜景が広く眼下に広がって、天国は抱きかかえられてる犬飼の首に力いっぱいしがみ付いた。 そうでもしなければ気を失ってしまいそうだったから。 next ………………………… 新しい連載〜!えっと夏くらいから書いてる(進まない)吸血モンです!やっほー!!!(何) 吸血モン書きたかったんだよぅ。 最初の予定から結構色々変わっちゃったりしてるんですが。 初!2代主人公?っていうかメインが犬猿・牛子です♪ っていうかメインが増えたせいか、(いつも犬猿オンリーだからな、連載)他キャラ全くでてません(笑)いやん! あ〜ラストが書きたいなあ。(もうか!?) だいたいの話し作りが私の場合ラストから決まるんですよねー(笑) [0]back [3]next |