本当の想いなんて、言葉にして出してみなければ分からなくて。
 アイツが何を想っているか。
 アイツが何を思っているか。
 自分が何をおもっているのか・・・。


 本当の想いなんて、言葉にしても伝わらなくて。
 あの人がどう思っているのか。
 貴方がどう想っているのか。
 自分がどうおもっているのか・・・・。



 私達はとっても小さな小さな人間だった。

 感情の迷路に迷ってしまうくらいの。




「猿野くーん!」
 遠くから呼び声が聞こえて天国は「ん〜?」と間抜けな声をだしながら振り向いた。
「どっした?子津っちゅ〜?」
「いや・・何か気分が悪そうに見えたんすよ」
「ははは、んな事ぁねーよ!」
「本当っすか?」
 疑わしい、とマジマジと顔に書いてある子津の顔を見ながら天国は笑う。
 最近は貧血とはもうお友達になってしまった。ああ、来るな、と思った時に来るし、これ以上はやばいなー、と思ったらそれは矢張り当たるので、実際気分が悪くなり始めてる天国はさっさと一人になりたかった所だ。
 いきなり元気な人間が毎日貧血を起こしてるなんて知られるワケにはいかない。
 知られたら、理由を追求されるだろう。
 人外のものの存在を容易に受け入れられるとは思わないが、冥の存在がバレたらやばいという事くらいは、分かる。
 だから、理由を追求される前に冥の伴侶になってしまえばいい、事くらいは分かる。
 でも、それは・・・・嫌だった。
 彼からの逃げのようで。
「でも階段のところで眩暈起こしたっすよね?」
 言われてピクリと目の下が痙攣したような気がした。
「・・・何で?」
 気付かれなかったと思ったのに。
「犬飼くんが猿野くんが貧血起こしたって・・・」
 『言ってたっす』という語尾は聞こえなかった。
 頭の中は何故犬飼が?という事だけでいっぱいだった。
「・・猿野くん?」
「・・・え?ああ?」
「聞いて無かったんすね?・・・だから、犬飼くんが引っ叩いてでも連れて来いって言ったんすけど・・・」
「はあ?なんで俺が引っ叩かれて犬飼の所にいかにゃならんのだ・・・」
「そこんとこは、ちょっと良く分からないんすけど・・・・、なんか犬飼くんなりに心配してるんだと思うっすよ?」
「っは。あの犬が心配だって?笑っちゃうぜ」
「猿野くん」
 天国が茶化すように口の端を持ち上げて笑うと、子津に睨めつけられた。
「・・・わーった・・・悪かった」
「・・・そりゃいつも喧嘩ばっかりしてるからそう言うのも分かるっすけどね・・・。スキンシップに本気を入れないで下さいっすよ・・・・」
「・・・何が」
「分からないんならいいっす」
 じっと天国を見ていた子津がふいっと視線を逸らして俺ははあっと息を漏らした。
「・・・あのな・・・」
「犬飼くんが待ってるっすよ?」
 天国が子津に言いかけた言葉は本人によってばっすりと遮られた。
「早く行ってあげてくださいっす」
 つーんと横を向いている子津に溜息混じりに頭を掻くと子津に教えられた通りである立ち入り禁止の屋上へと足を向けようと踵を返した。
「猿野くんの体調の異変に真っ先に気付いたのは犬飼くんっすよ」
 天国は舌打ちしたい気分を堪えて校舎へと戻った。



「・・・犬飼」
 屋上へ昇る階段はどこか冷っとしていて、昇る途中に窓が無いからか、とても陰鬱な感じがした。
 天国は立ち入り禁止の看板をひょいっと飛び越えると先客がいるのを知っているので、細工することもなく、鉄製の扉を開く。
「・・・猿」
 ぎ・・と重い音を立てて扉を開けるとフェンスに寄りかかった犬飼が言葉と同時に振りかえった。
「何だ?呼んでるって聞いたんだけどよ。用があるならテメーで声かけりゃいいじゃねーか」
「・・・それじゃ喧嘩にしかならねーだろうがよ」
「じゃあ何か?二人っきりだったら喧嘩にならねーみたいじゃねーか」
 天国が可笑しそうに笑うと犬飼は琥珀の色の瞳でじっと見据えて言った。
「ならないな。とりあえず」
「・・・何を根拠に・・・・」
「・・・そんな事は別にいい。それよりも」
 この目に焼かれるようだ、と天国は思う。
 痛い。
「素人猿の癖に最近どうした。猿はやっぱり体調管理さえも出来ねえのか?見た所病気ってワケじゃなさそうだが」
「・・・・何でテメーに・・・」
「お前はレギュラーだって自覚はあるのか?」
「・・・・」
「お前が蹴落として来た奴等を知っているのに、か?」
「・・・・」
 それはお前だって同じじゃないか、という言葉は喉の奥に消えた。
 皆を蹴落として得たものを、犬飼は御柳を目の前に捨てるような真似をした。
 それでも、俺とは違うけど・・・。
「だったらもう一度辞めちまえ」
 コイツが変だと思ったのは間違いだったらしい。
「二度と戻って来るな」
 言われて、こいつはこういう奴だって事は分かりきっていたことなのに、思わず奥歯を噛み締めてしまった。
 バカみてえだ。
 知らない内にしてしまった期待。
 誰に言われても、自分で否定してきたのに。
 強固な壁を作り、その言葉を信じないように。信じて裏切られるのは真っ平だ。
 なのに、自分でその壁の隙間を覗いてしまった。
 覗いて期待して、その壁を容易に崩された。
 まるでそれがバカみたいな期待だという事を思い知らせるように、砕かれた。
「・・・んな顔するくらいだったら・・・何してんだ、猿」
「・・・え?」
 知らない内に唇を噛み締めていたらしい。
 犬飼の吐息混じりの声を聞いて。
 存外に優しい声音を聞いて天国はふと顔を上げた。
 見なければ、良かったと思う。
「何かあんのか?」
「・・・・」
 じっと見つめるその双眸。
 余りにも激しく、余りにも苛烈な。
 そして少しだけ、心配気な・・・。
 それだけで息が出来なくなるというのに・・・。
「猿?」
 どうして犬飼が声をかける気になったのなんてのは、分からない。
 どうして犬飼がこんな事を俺に聞くのか、分からない。
 分かっていたのは、犬飼が俺を嫌いだったという事。
 俺を嫌いだと言うこと。
 なのに、どうして・・・。
 どうして優しくもなく、冷たくも無く。
 犬飼冥のそのままで。
 そんな風に声を掛けるんだ?
(冥――――)
 心の中で強く問いかけた。
(犬飼がこんな風な態度を取るのは、お前が中にいるからなのか?)
 天国は冥と朝まで過ごした事が無い。
 光りが駄目だから、と必ず言う。
 そして気が付けば天国は古城のようなあの屋敷のベットでは無く、自分のベットで目を覚ますのだ。
 そして天国はそれがいまだにどう言うことなのかが、分からない。
 話しても、貰えない。
 天国が話しを聞くと、冥はぽつり、ぽつりと喋るけれども、何時の間にかはぐらかされている気がする。
 それは日が経つごとに顕著になっている気がする。
 冥は明らかに戸惑っている。
 そう、感じる。
 好きだと言い、愛してると言い、俺だけの伴侶になってくれと言いながら、何かをはぐらかされている気がしてならない。
 だから天国は本当のことが分からない。
 『犬飼冥』のことが分からない。
 何であんなにも冥は犬飼に似ているのか、
 何故、犬飼はあんなにも冥に似ているのか。
 どちらが本当なのか。
 それとも別々なのか。
 どちらも本物なのか。
 二つは同じものなのか。
「・・・・っ」
 犬飼を前にして混乱は深くなる。
「猿?」
 やめてくれ。
「・・・顔色が悪いぞ?」
 言われて先ほどの貧血が再び襲って来ていることを知る。
「・・大丈夫か?」
 そんな言葉をかけないでくれ・・・。
 お願いだ、犬飼。
 何故、今なんだ?
 どうして今なんだ?
 俺は・・・分からなくなっちまう。
 迷ってしまうんだ。
「・・いぬ・・か・・・」
 どうか今、この血を吸ってくれ・・・。


 ふ、と意識が途切れて再び天国は犬飼を目の前に倒れた。
 遠くで、『二度と俺の前で倒れるなと言ったのに』という声が聞こえた気がした。



next



…………………………
こんにちわ〜。
どんどん更新遅くなってます・・(汗)
ぎにゃ・・・ごめんなさひ・・・。
っていうか、読んでる人いらっしゃるのかなー?っていう気もせんでも無いですが・・・。
自己満足のために書きつづけよう・・・(寂しいな、お前)
でも最近いや〜な感じですね・・・。集中出来ないので・・。
言葉が表面滑って、書きたい事をごっそり抜かしてる感じっす・・。
そんなののっけるなよ・・・って感じですが・・・。
もし楽しみにしていらっしゃる方がいれば、最愛をこめて、ありがとうです!
2004.01.18


[0]back [3]next