これは、一人で生き延びた罰だろうか。

 自然の摂理からはみだして、生きている咎だろうか。

 もう、祈る神もいないけど。

 僕は唯一人、生き延びたくなんて無かったんだ。



「子津くん・・・さっきはごめんね・・・」
 牛尾には短過ぎる昼が終わり、夜になって、顔を伏せている子津と外で顔を合わせた。
「・・・いえ。別にいいっすよ・・・」
 朝、辰羅川から天国と子津が休むという連絡を受け、空いた時間を利用して牛尾は2人がいる部屋に向かった。
 そこで、問い詰められた言葉に混乱してしまって、子津を傷つけた、と思ったのはついさっきの事だった。
「・・・約束通り、話して、貰えるっすか?」
「・・・うん」
 軽く微笑んで、その笑顔がとてもいつもの笑みで無い事を承知していたが、微笑んで、牛尾は軽く自分の隣を示す。
 鎮痛な面持ちで、隣に座った子津の体を不意に掻き抱く。
「っちょ!!!」
「ごめん。・・・ごめん!・・・話は絶対後でするからー・・・だから、お願いだ」



 隠したいものほど、容易に暴かれる。


「無涯っ!」
 ちいさな、ちいさな記憶だった。
 その頃の僕は、とても楽しそうに笑っていた、筈だ。
「御門!そんなに遠くに行くなと言われたと言っただろう」
「大丈夫だよ。ほら、無涯の母様に持ってく薬草、取りたいなら、ここじゃないと。僕が一緒にだから大丈夫だよ」
 まるで、現在のフィルムをセピア色に変えたかのような、鮮やかで、古びた記憶だった、それは。
「ったく、お前は。」
 どこからその自信が現れるのか、という思いがありありと滲んだ声音に振り向くと複雑な表情をしている屑桐の顔を見て、牛尾はふわりと微笑んだ。
「だって、無涯の役に立ちがいんだ!無涯といるととっても楽しいんだよ。新しい世界が広がる感じ。それから、凄く落ちつくんだっ!」
「・・・胡散臭いいヤツだな」
「無涯の顔の方がよっぽど胡散臭いよ」
「・・・どういう意味だ・・・」
 軽く笑い声をたてて、自分の足で走った。
「ほら!早く行こうよ!僕きっと役に立つからー」



 重い重い蓋が少しづつ開いていく。
 ほんの少しの隙間から、多大な記憶が溢れて来て、牛尾は振り切るように頭を振った。


 もう、失いたくは、無い。
 このまま、伴侶にしてしまいたい。

 そうすれば、失う事はなくなる。

 一人で生きなくても、済む。

「子津くん・・・・お願いだよ・・・、早く・・・・。」
 呟いて、己の体の下で体を硬直させている彼の体を抱きしめてから、言葉に詰まった。

「ごめんね・・・」
 ふと、首筋に温もりを感じて目を合わせた。



 大切な
 大切な
 おもいで。

 柔らかくて
 優しくて。

 まるでゆりかごに ゆられているよう。




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…………………………
あー、短いですが、ようやく全貌(というものでも無い)が見えそうで見えななそうです。(どっちよ)
牛尾さんの過去を只今つらつら書いておりますだー。(後3話先ですが)
2005.09.10


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