■【タイム・リープ〜凍結氷華〜】■ 02

ここに逃げ場はない、隠れることも出来ない。
竜崎は月が何を企んでいるのかを考えるしかない。
……そうやって、僕のことしか考えられなくなるといい……


【タイム・リープ】
〜凍結氷華T〜#2


「寝ないの?」
たっぷりと睡眠を摂った月は起き上がると交代で眠るはずの竜崎ににっこりと微笑み上機嫌で話しかけた。
「……寝ません」
「そう?体調なんてあっという間に崩れちゃうよ?」
「……貴方がそうなるように追い込んだのでしょう」
「ええ?僕はちゃんと『分かった』って言ったでしょ」
にっこりと極上の笑顔を浮かべて、わざとらしく小首まで傾げてやる。竜崎は忌々しそうに「そうですね、一応そういう話でしたね」と吐いた。
「まあ、竜崎が倒れたら、僕が誠心誠意隅々まで看病してあげるから安心して」
ここまで言えば、聡い竜崎は、月が想定した最終的な結論に辿り着くしかない。
何しろ竜崎はLだ。Lである事を死ぬまで手放そうとしないヤツには、こういう世界を盾にするようなやり方のほうが話は早い。
「聞きたいことがあったら洗いざらい答えるよ?」
「………月くんの死因は何ですか」
ほらきた、と月は内心苦笑を隠せない。
(僕に戻れる可能性があるなら受け入れられないって事だろ?全く難儀なことだよ)
「リュークっていう死神のデスノートによる心臓麻痺。お前の後継者のニアとメロにやりこめられてね。捕まったらいつ死ぬか分からないっていうんで、死神に殺された」
「……」
「もっと確証が欲しい?ニアはネイト・リバー。メロはミハエル・ケール。どう、あってるだろ?」
「……そうですか」
『そうですか』では答えになってないが、月の説明で、それまでの事のあらましを大体想像したのだろう。竜崎は静かに溜息をつくと「疑う余地はないようです」と呟いた。
「それではもう、二人ともここで過ごすしかないのですね…。まあ、月くんの場合はチャンスが0%の可能性はないわけですが…。いつ来るかも分からないタイムリープを待ってはいられません。…それで」
うん、と頷く月の前で竜崎の黒いばかりの瞳がうっそりと険を帯びる。
「一体私をどうしたいのです。ここにも生存者がいる以上私は容易に死ぬわけにはいきません。月くんが要求するのは私とのキスだけでは無いんでしょう?その次が済んだら次には何を要求するつもりですか?…月くんの征服欲を満たすために、私は私の命を差し出すことはできませんし、私自身の体を損なうような事や回数には応じられませんよ」
「…おいおい。随分な言われようだな。要求とか征服欲とか…。…別に僕が望んでるのはそう難しいことじゃないんだよ。一番の望みはお前の傍にいることだ。それで、お前の全てが僕のものになればいいと、そう思っただけさ」
「……それのどこが征服欲じゃないと?」
「…うーん…確かにそう聞こえるかも…。でもやっぱり違うんだよ…。ああ、なんて言えばいいのかな。お前が僕だけのものになればいいっていうのもあるけど…、僕がお前だけのものになればいいとも、僕は思ってる。」
そう告げると竜崎はガリガリと爪を噛んで難しい顔をした。しばらくそうしてから、目線だけをぎょろりと上げて月を見据えた。
「それは私のことが好きということですか」
「え?」
思わずきょとんとしてしまった月に竜崎は「違いましたか」と再び考えこむ。それに「ちょっと待って!」と手をあげて留めてから今度は月が頭を捻った。
(好き?僕が、竜崎を好き、だって?…、嘘だろ?好きってあれだろ…ミサとか他の女の子たちが僕に言ってたアレだろ…。…恋とか、絶対有り得ない…けど)
嗜みで目を通した文芸作品や、付き合いで見た映画、粧裕に植え付けられるようにして聞かされた音楽で言われていた症状と、似通いすぎている。
(でもそんな、あやふやな…。ああ、あいつらはなんて言ってたっけ)
恋をすると、ドキドキして、ちょっとしたことで幸せになって。離れがたくて、その人のことしか考えられなくなって、全てが欲しくなって。触れたくて、優しくしたくて、されたくて、理解してほしくて、求めて欲しくて、一緒に溶け合ってしまいたいとかなんとか?
(いやいや、溶け合いたいとかはまだないし!!…けど、該当項目が多すぎるのはなんでなんだ…)
ぶつぶつと呟いて、確認するために竜崎と顔をあわせようと思ったが、怖くてできない。
けれども、ずっとこうしていられるわけはいかないのだからと、腹を括ってキッと面をあげる。
竜崎はいつもの観察スタイル。大きな目を見開きっぱなしで、口許に指をあててこちらをずっと窺っていた。
「…そうですか、分かりました。ちょっと考えさせてください」
竜崎は月が何も言っていないのに頷くと仮眠を取るためにさっさと寝床に入ってしまった。

リトマス紙のように反応して赤くなった月の頬は、しばらく経つまで、赤くなったままだった。


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