■【裁きの剣】■
03
「ここが官房官殿のお屋敷ですか…」 「まあ、代々続いてるから大きさだけは十分だよ…。って言うかさ。その官房官殿って止めないか?個人的な友人として僕は君を屋敷に呼んだんだ。月でいい」 「…では、月くんと…」 りん、 と軽やかな鈴の音が静寂の夜に鳴り響いた。 【裁きの剣】 Lが月の誘いに承諾してから、直ぐに月はLとニアメロを自分の屋敷に誘った。 備えあれば憂い無し。先人はよく言ったものだと考える。 ささやかだが宴の準備がしてあるから、と月はLの考えが変わらない内にと先手を取った。 そして、その誘いを半分だけ断った(つまりニアとメロは置いて来た)彼は邸内を歩く自分の背後にいる。 「寒くは無いかな?」 砂漠は夜になれば、昼の暑さが嘘のように一気に寒くなる。 Lは薄く…見た目によれば、金銀を貼り付けたよりも奢侈な、淡い水色の絹の服の上から白い厚手の、月達が着るのと大差無い外套を羽織っていたが、Lの足元の鈴が涼し気な音を立てるので、月にはLのいでたちが寒そうに見えてならない。 もしかしたら、外套を着た途端、猫背になる彼の悪癖のせいもあるかもしれない。 「大丈夫ですよ、慣れてますから」 「そう、ならいいけど。一応部屋は暖めてあるから」 「有難うございます」 言って、月は直前で変えた、月の家のでは割りと小さ目の部屋の布を押した。 夜は外気が内に入らないよう、見えないように、遮蔽性のある布が部屋の入り口にはかけられている。 淡い光がゆらゆらと揺れた。 「…これは…。どうやら気を使わせてしまったようですね。…お部屋を変えられたでしょう?」 言いながら、Lは促されて、幕を上げて入り口を開く月の横を、外套のフードを取り払いながら通る。 ふわり、とその髪から放たれる、甘い匂いが月の鼻を掠める。 それはLのいたテントで嗅いだ匂いとは違うように思えて、思わず緊張を解いてしまいそうな、そんな感覚に襲われた。 「そうだね。君一人だし、だったらこういう部屋の方が落ち着くかと思ってさ」 少し君の部屋に似ているだろう?…と聞きながら、月は少し感心する。 やはり、Lの頭の回転は相当早い。 これは楽しい暇つぶしになるかもしれない。そう思って月は少しだけ笑った。 「…よくもあんな少ない時間でここまでしたものです。有能な人達を雇っているようですね。…そして月くんも。」 室内に入ったLに続いて月も幕を下ろし、中へ続く。 すうっと足下から忍び寄る冷気がぴたりと止まった。 「有難う。…さあ、立ち話も何だ、座ってくれ」 褒められるのは慣れている。ただ、少し誇らしかった。 Lに言われたのが。 月はそれ以上考えず、Lに席を薦めた。 「あー!なんだって一人で行っちまうかな!Lはっ!!」 先程からメロはブスブスと苛立ちで煙があがりそうな程不機嫌だ。 「メロ、Lの決めた事。アナタだってハイと言ったでしょう」 「…うるせー、お前なんか大っ嫌いだ。話かけんな」 ふんっ!と勢い良く顔を背けたメロにニアは嘆息する。 Lに言いつけられた荷造り(と云ってもたかがしれてるが)をしている手を止めた。 「メロが私に話かけるのは良くて、私がメロに話かけるのは駄目だとは。随分勝手じゃ無いですか。しかも手伝わない。Lに言いつけますよ」 そう脅すとメロはむっつり膨れてニアを睨む。 「俺のは一人言だからいいんだ…。ニア…バカの一つ覚えのようにLの名前を出すなよ」 「選ぶ手段は一番早く、確実な物を選ぶのが常識ですから。…しかし」 『しかし』の言葉にメロはしまった、と警戒心を強くする。 案の定ニアはにやりと笑った。 それはもう極上の玩具を手にした、子供のように。 「確かにメロの言う事にも一理あります。芸がなさ過ぎますね?…都合がいい事にLもいないので…。メロ?どこに行くんですか?」 「…外だ」 むんず、と普段はどこかに遊びに行っているに違いないニアの運動神経がメロの腕を捉える。 捕まえられたままメロは、振り返る事もせずにぶっきらぼうに答えた。 「外でしたいなんてメロは強者ですね。でも砂まみれになるのは御免被りますから、ここにしましょう」 「だぁから外に行くっつってんだろ?!っつか誰もしたいなんて一言も言って無いだろが!」 思わず、振り向く。 振り向きざまにもう『しまった』と後悔するワケだが、大抵そういうものは後の祭りだ。 後ろを悔やむ時点で現況は決まっている。 唇を奪われた。 ニアはニア流のお仕置きをするつもりだ。それがただの口実である事は、一番メロがよく知っている。 生暖かい舌が口内に侵入して来た。 触れ合った舌先がじんっと痺れるように熱い。 「…メロ」 「………何だよ」 不機嫌を装って低く呟くと、何時もは嫌ってくらい表情の乏しいニアが笑う。 「Lに聞かれる心配が無くて良かったですね。思いっきり声が出せますよ?…まあ、唇を噛み締めるメロもそそりますが…」 「っの、変態!!」 ムカついたので、メロは思いっきりニアを殴る事でストレスを解消した。 To be continiued ■懺悔■ あれ? 何故か月Lの前にニアメロがチッスをしてしまいました。計算外の出来事にびっくり水野です。こんにちわ! 第2幕は如何でしたでしょうか?(ちょっと言ってみたかったセリフ) これのLは外套を脱いでいる時はちゃんと背筋が伸びる事になってます。後は気を抜いた時。 大変な捏造で申し訳もない。 そんな6月の日 水野やおき2005.06.20 ≪back SerialNovel new≫ TOP |