■【タイム・リープ〜凍結氷華U〜】■ 04

飛行するヘリコプターから見下ろす風景は、一段と寒々しい。
白に覆われた景色に果ては見えず、思い出したように生えている鉄塔や、高層ビルなどが人類のかつてを告げていた。
まるで、滅び去った遺跡でも見ているような寂れようを、痛ましく眺める。
(ああ…『まるで』じゃない、これはもう、遺跡なんだ…)
人の住まわない廃墟なら、もう遺跡と呼んでいいだろう。
かつて栄華を極めた人類の爪痕が、氷の大地に封印されて、息を吹き返すことなくただ静かに横たわっている。その風景に、自分の胸の内が重なって見えて月は目を細めた。
(…なんだか僕みたいじゃないか…?)
止まることが出来ず、欲望を止めることが出来ず、名前をひとつ書くたびに、豊かだったはずの大地を喰い散らかし、蝕んで。気がつけば、逃げる場所もなく、温まる場所もなく、ただただ恐ろしいだけの荒野に成り果てた。
こんな空恐ろしい世界ならば、いっそ跡形もなく滅んでしまった方がいいのではないかと、思いもするけど。


【タイム・リープ】
〜凍結氷華U〜#4


「竜崎、おはよう」
「…はははは、若いっていいですよねー…」
しっかりとした目標が決まれば立ち直るのは早い。
絶対に悲しませてはならない相手がいれば、少しは強くもなれる。
ここ数日のスッキリとした目覚めに、にこやかな笑みを浮かべて松田の目の前で竜崎の唇にキスをすると、当の本人はさして気にも留めずに軽く流し、からかう対象である松田は、月の思い通りに顔を赤らめて顔を逸らした。
調子に乗って舌を差し入れると、脛にキックが来て、飛び跳ねる。
(…なんだよ、こんなの竜崎と松田さんへの愛情表現だろ…?)
「何やってるんですか、早くどいてください」
何度か飛び跳ねてから蹲った月に竜崎は容赦ない。この間まで優しかったのに、などと思いながら涙目で竜崎を見上げる。そしてそのまま腰に手を廻してお腹に頬をくっつけた。
「ひーちゃんもおはよーvV」
「………」
竜崎の体にぞわっと鳥肌が立つのが分かって、ちょっと拗ねる。何も鳥肌を立てなくてもいいじゃないか。
そんな竜崎にも、拗ねている月をも気にせず松田がキラキラと瞳を輝かせた。
「え?なんですか、もう名前決まってるんですか?」
「ええ。ひ「ストップ!!!!」…」
竜崎があっさりと子供の名前を教えそうになって、月はおもむろに声を被せる。
正体不明の生物をみるような竜崎の視線がなんだか心地よい。
「ダメだよ、竜崎。ひーちゃんの本名を教えたりしたら!生まれたら僕が最初に呼ぶんだからさ。あ、最初にひーちゃんの名前を呼ぶのは竜崎でもいいけどね♪」
「ええー!そんなぁ教えてよ月くん〜〜〜!凄く気になるよ!」
「ダメです。それにLの子供ですよ、本名なんて軽く教えられませんよ」
「あー、そうかー、Lの子供だもんねー…」
やっぱり松田さんはチョロイ。
「あ、でも一つ分かりましたよ!『ちゃん』ってことは女の子なんだ!今日は冴えてる!」
「いや、冴えてません。というか、僕も竜崎も知りません。まだ小さすぎてわからないんです。でも名前はこれで決定」
「ええー!じゃあ、男の子でも女の子でも大丈夫な名前なんだね!ひ・ひ・ひ…」
「…どうでもいいんですが、早く離れてくれませんか、月くん…」
月が松田と楽しい掛け合いをしていると、竜崎がうんざりしたように呟き、べりーっと月を引き剥がす。
「ところでこれからの予定なんですが…、もうこの辺りには誰もいないと判断して、今日からはヘリのみでの移動、要所を回るだけの捜索に切り替え範囲を広げようと思います。…いいですね?」
言われて、月は微笑んだ。
(僕はもう、大丈夫だ)
そして思う。

月がもう一度微笑むことが出来たように、
この大地も、また綻ぶことが出来るだろうか。


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