■【Ｌｏｖｅｒｓ】■ 08

◇　◇　◇　◇　◇　◇side 普

「ん、ぅん…っ」
キスをしながら脇腹を素手で撫でただけでイギリスが甘く喉を震わせた。
今日も絶賛感度は良好のようで何よりである。
しかし、舌の方はちゃんと応える気は無いらしい。煽ったのはそっちなのに酷い話ではないだろうか。
プロイセンは唇を離すと、ふんと鼻息をついてからイギリスを見下ろした。別に怒ってはいないが、どうしてやろうとは思っている。どうやって思い知らせてやろうと思っている。これは怒っているうちにはいらねーよな、とプロイセンは考える。
（まあ、時間をかけて溶かしてやるか…）
本当は告白までに時間をかけるつもりだったが、こうなってしまったものは仕方ない。本人にも煽った自覚もあるようだし、それなりの責は負って貰わなければ困る。プロイセンはニッと唇を歪めた。恋に落ちてそう時間は経っていないけど、遊びのつもりはない。意地っ張りで、でも根はとても素直なイギリスを構い倒したくて堪らないと思っている。いつも虚勢ばっかり張って、でもホントは凄く寂しがり屋な心を満たしてやりたい。甘えて欲しい、甘やかされたい、甘やかしたい。
（俺と同じ気持ちにさせてやりてーよな）
ならば、イギリスの中に芽吹いている感情をじっくり引き出すのみだ。
原石だというなら、磨いてやればいい。それだけの話。
「………？」
動きを止めたプロイセンを不審に思ったのか、イギリスがそっと瞼を上げる。プロイセンは穏やかに笑いかけて、涙腺の緩いイギリスの眦にキスを落とした。たったそれだけの事でぴくんと体を揺らすイギリスの反応がとても微笑ましい。
好きだぜ、と囁くととても困った顔をする。でも喜色が隠せきれてない。
「お前隙だらけだよなぁ」
「なっ…ぁっ」
反論しようとした唇から甘ったるい声が漏れてプロイセンは喉を震わせた。
首筋を舐めただけでこれだ。そのまま所有の証を残すと慌てたようにイギリスが「ちょっ…」と声を上げたので「襟で隠れる部分だって」と丸めこむ。
「俺様のもんになったんだからこれくらい当然だろ」
「ばっ…かぁ…」
「もっと言っていいぜ。俺様お前のそれ、好きだから」
「ばかぁ！…あ。」
「案外単純な所もいいよな」
「っ…やめろよ…」
「やめねーよ。そんな意地っぱりな所も好きだぜ」
「〜〜〜〜〜〜！」
プチプチとボタンを外しながら所有印を刻む度に声をかけていく。イギリスは早くも息を荒げていて、口元が緩むのを止められない。
「お前本当はすげー素直だよな。可愛いぜ」
「もっ、喋るなばかぁ…！」
「なんでだよ。感じるからってんなら無理な相談だぜ？」
きゅっと唇を噛みしめる様子からして図星なんだろう。愉快な気持ちが止められずに破顔一笑した。
「お前めちゃくちゃ可愛いぜ。俺様もうメロメロ」
「…メロメロは古いだろ」
「じゃあ、ぞっこん」
「………それもどうだよ」
微妙な顔で言われて「そうか？」と笑う。だいぶ力が抜けてきたようで、いい兆候だ。
「でも、お前も俺様にメロメロだろ？」
「バっ…！何で俺が…！」
「こんなに赤い顔して説得力ねーなー」
によによしながら脱がしたズボンを捨てて片足を持ち上げる。
「っ！」
暴れようとする体を効率よく抑えて笑みを刷いた。
「随分濡れてんじゃねーか。そんなに本格的に触ってねーのになぁ？」
カッと顔を赤くして睨みつけてくるイギリスを一瞥して、体をずらした。股座の間に顔を埋めて下着の上から舌を這わせると、面白いくらいにイギリスの体が跳ねた。
「やっぁっ…」
舐め上げるだけの単純な行為にも、イギリスはぶるぶると体を震わせている。感じやすい体というのも大変そうだ。お相手する側としては楽しいからむしろ大歓迎なのだけど。
透けてぺったりとくっついている下着の上からの愛撫。ひくんひくんと反応を返す体を慈しみながら、バター犬よろしくペロペロと舐め続ける。愛液とプロイセンの唾液でべたべたになって随分経ってから、イギリスに泣きが入った。
「…ちょくせつ…さわれ、よっ…」
「何だよ、好きでも無い男に直接触らせてもいいのかよ」
「〜〜〜〜〜〜！」
言葉に詰まったイギリスを眺めてから「ま、いいぜ」と下着をちょっとずらして脚の付け根をくすぐった。
「ぅんっ…そこじゃ…ねぇ」
「ああ、こっちだよな？」
望み通りに中心部を舌で撫で上げると、あられもない嬌声が上がった。
舌先で割って入る。熱い。中に入ったら気持ちいいだろうなーと思いつつ体の欲求は無視をする。イギリスの気持ちを引き出すのに必要なことだ。イギリスの気持ちなど、態度を見ていればわかるけれど、明確な言葉で言質を取っておきたいし、普通に耳にしたくもある。熟れた声で一途に「好き」だと言われたらどんな気持ちになるだろうか。想像しただけで背筋に震えが走る。それを現実にするには忍耐が必要だ。
くちゃくちゃといやらしい音を響かせながら決定打を与えずにいると今度は本当に泣きだした。
「もっ、イかせろよ、ばかぁっ…。本当は怒ってん、だろっ」
すんすんと鼻を啜る音がして、プロイセンは顔を上げる。唇を拭ってから顔を覆って泣いているイギリスを見下ろせる場所まで体をずらした。両手を掴んで顔を晒させる。もどかしさに濡れた瞳が印象的にプロイセンの瞳に映り込んだ。
「怒ってねぇって」
「だったら、なんで…、ちゃんと、して、くれねー…んだよ」
赤い目許も、頬も鼻先も可愛いなぁ、などと思いながら回答を落としてやる。
「ちゃんとしてんじゃねぇか」
「早く、挿れろって、言ってん、だよ！誤魔化す、な！」
それに過剰に反応したイギリスに怒鳴られてプロイセンは笑いだしそうになるのを必死で堪えた。怒りながら強請るってどういうことだろう。
「………あー、でもなー」
「なん、だよっ」
しかし、こんな時でも偉そうに振る舞うのが、なんというかイギリスらしい。
プロイセンは笑いを抑え込んで目を細めて笑うといやらしく耳打ちしてみた。
「お前の処女貰ちまっといてなんだけど」
「しょ、処女とかいうな！バカああああ！！」
さっきまでぐすぐす言っていたと思えない音量で叫ばれて耳を庇う。耳は微妙に痛いが、からかい甲斐のある奴だなぁと感心しつつ、プロイセンは先を続けた。
「いや、だって、経験あるっつったって、あそこに入ったのは俺様が初めてだろ？エロエロの癖にちょっと痛がって可愛かったし」
「ばばばばばばか野郎！恥ずかしいこというな！！」
「気にすんな。まあ、そんなワケで俺様は思ったんだよ」
「気にすんなって無理な話だろ！」
「一度目も二度目も単に成り行きだし、三度目の正直っつーか、やっぱり欲しがられてーっつーか、もっと大事にしてーっつーか」
「無視すんなっ！つーか、だから早くしろって言ってんじゃ…ねーか」
急に語尾が小さくなって妬ましげに睨めつけられて、プロイセンはその頬をツンツンとつついた。
「そうじゃねーだろ。『俺だから欲しい』っつって欲しいんだって」
「…お前それさっき言ってた事と違わねーか」
不機嫌そうな声に、プロイセンはゆるく笑う。
「違わねーよ。さっき言ってたのはイかせまくって理性飛ばして何でもいいから言わせようって話で、俺様はお前の本音がお前の言葉で欲しいって言ってんだよ。全然ちげーだろ。それにな、ほんとすげー可愛がりまくりてーの」
ちゅっと頬にキスをすると、先程まで怒って引っ込んでいた筈の涙がまた滲んでいる。本当に泣き虫な奴だ。
プロイセンはケセセと笑いながら囁いた。
「両想いになってよ、忘れられねー夜にしてーんだよ」

晴れやかな笑顔でそう告げると、イギリスはその顔をかぁっと薔薇色に染まらせた。
潤んだ瞳に熱を込めてプロイセンを見上げて来るので、プロイセンは目尻を優しく溶かして一度コツンと額を合わせると、少しだけ距離を開けてその瞳を覗きこんだ。
「な、イギリス。俺のこと、好きだよな？」
そう問うと、イギリスはやはり困った顔をする。
「俺はお前のこと、好きだぜ？分かってんだろ？」
告げると今度は視線を伏せて、存外長い睫毛を震わせた。
プロイセンは『まあいいや』と、とりあえず返答を諦めその頬に軽く口づけると、その唇を形の良い胸の隆起の、その先の尖りに移動させた。
「…んっ」
ちゅっと吸いつくと、あえかない声が上がる。
掌で体をいやらしく擦りながら舌先でこりこりの尖りを虐めてやると、むずがるように体をシーツに押しつけた。
『早く挿れろ』と言っていた体は先程の会話で少し落ち着いたのか、吐息は甘く急いていても懇願は口にしなかった。
それをいいことに、利き手でその肌を丹念に味わった。しっとりと汗ばんだ肌がすべやかでとても気持ちがいい。
掌全体で緩やかに、指先だけで軽やかに。優しく優しくその体を慈しむ。
勿論、胸に与えている愛撫も強いものではない。赤子が乳を強請るにしてはかなり性的過ぎるかもしれないが、前戯にしては些か寛大な動作で色づいた尖りを舐った。
はぁ、と緩やかで蜜のような溜息が溢される。それを聞きながらようやくちゃんと下着を脱がしてやった。
「イギリス」
唇を胸の尖りから離して名前を呼ぶと、眦を赤く染めたままイギリスが視線を合わせて来たので、ゆっくりとした動作でその中心部に指先を這わせてやった。
「っぁ、」
期待した刺激にだろう、ふるりと震えて瞳を眇める。
まだまだ理性的で、でも、淫蕩な表情を見下ろしながら、熔けた秘所に指先を埋め込んだ。
「っ」
イギリスの愛液で濡れた指がゆっくりゆっくりと埋まって行く。
プロイセンの雄が与える刺激に比べれば大層微かな快楽を、イギリスは全てを拾っていって、指先が緩慢な動作で抜き差しされる度に、我慢できないというように目をキツク閉じてぶるりと震えた。
「〜〜〜〜〜〜っ」
生優しい刺激は、それでもイギリスを追い詰めているらしい。きゅうきゅうと指先一本を締め付けて、快楽から逃げようとしているのか、それとも微かな甘さを貪っているのか、握った拳を唇に押し当てながら耐えていた。
同時にプロイセンの体を強く挟み込んだ両足を片手で宥めるように撫でてやれば、イギリスの瞳が僅かに開いてプロイセンに視線を合わせ、それから顔を耳まで赤くさせた。
「みっ、見んなばかぁ！」
凝視されているのに気付いたのか、イギリスが慌てて顔を隠す。
「何でだよ。すっげぇ可愛いぜ？まあ、勿論こっちの反応も、な」
くっと指先を曲げてやると、びくんと大袈裟に体が震えた。
そのまま掻き混ぜてやるとぐっと体に力が入ってひくひくと内側が貪るように小さく痙攣したので動きを止めた。
「…ぁっ…」
期待した刺激が失われたからだろう、イギリスが物足りなさそうに声を上げて、それから「はぁ」と息を吐いた。
「………」
「………」
「……？」
沈黙が落ちて少々。何か変だと気付いたイギリスがこちらに視線を合わせて来たので、プロイセンはにやっと笑いながらナカを探りだす。
気まぐれな愛撫の再開に目の前の体がぴくんと撓んで、素直に快楽を享受しはじめ、また快楽の階を上り切りそうになった所で止める事数回。
意図に気付いたイギリスが涙目で『信じられねぇ』と言わんばかりの視線を向けたので、プロイセンはいい笑顔で笑ってみせた。


◇　◇　◇　◇　◇　◇side 英

ひっ、ひっ、と突き上げられる度に濡れた声が出た。
直接粘膜を擦り上げられる快感は凄まじく、また接触の熱さで脳内が灼けるようだった。
「…もっ、やっ…」
注挿の度に響く水音とお互いの呼吸音、ベッドの軋む音に自分の心音が混ざり合って思考が分散する。
それでも全ての理性と思考を飛ばすのを許さないとでもいうように、未だ一度もイかされていない。
緩いストローク。それでも熱は蓄積して、けれども登り詰める寸前でピタリとそれを奪われた。
ぎゅうっと締め付けて自ら腰を動かそうとすると、ナカにある熱の塊さえ取り上げられて、イギリスは泣きたくなった。っていうか、随分前から泣いてしまっている。
「プ…ロイセ…」
抜ける感覚にぶるりと身震いする。それでも上り詰めには足りない。
もう勘弁してくれとその名を呼ぶと「ん？」と優しげな声が聞こえた。
しかしこの声音に騙されてはいけない。
「…どーした？」
どーしたもこーしたもねぇよ、と、イギリスは思う。
優しげな声音で、実際優しく微笑まれてぐすんと鼻を鳴らす。
最初はやっぱり怒っているのかと思った。だから問題解決の為にちゃんと聞いてみた。そして知った。こいつはただのドＳだった。…愛はあるようだが。
「も…、ゆる、して…イきた…」
「…………」
ちゅうっと頬を啄まれて、その後眦から溢れた涙を舌で舐めとられた。
しかしいらえは無く、微笑みと軽いキスが返ってくるばかり。
「…、」
反論を優しげなキスに奪われたのを知った所で、今度は頭を撫でられて、耳元に睦言を囁かれた。
「ばかぁ」
これは酷い。これは無い。いっそ理性も思考も奪ってくれた方が楽だった。どこが許してやるだ、こっちの方が酷いじゃないか、とイギリスは思う。
普通、『本当は泣かせて許してって謝らせて、俺様の事が好きだっつーまで、体の方から素直にさせてやりたいんだが…』なんて言うのは、謝って泣いて好きだと言ったらイかせてくれるものだ。そんで俺ナシじゃイけない体にしてやるよ、とか言ってイかせまくるとか、そういうもんだと相場は決まっている。だが、プロイセン曰く彼がしたい事は違うらしい。似ているが、違うらしい。大事な事なので二回主張してみた。だってそっちの方がマシだろう、とイギリスはプロイセンを責めたい。
兎に角、本人いわく『違う』という可愛がる行為にイかせる事は入っていないようだ。頭がおかしくなりそうなくらい気持ち良くて、その先を熱望しているのに、寸前で取り上げられる。熱が蓄積しすぎてどうしようもならない時には、ある程度落ち着くまで問答無用で休憩に入るのだから徹底しているといえた。
結局泣いて謝って懇願したのは無駄だったようだ。
挙句、イギリスの奥に閉まっていたまだ形のはっきりしないものを引き出していったのに、許して貰えない。酷い。
何度好きだと言わされたことか。
契約じゃないけど契約不履行だ。
本当は凄く怒っているんじゃないだろうか、だからイジワルしているんじゃないだろうか、そう思ってプロイセンを見上げれば、ルビーのような瞳を眇めて優しく微笑まれた。一応その瞳の奥には、怒りとか陥れてやろうだとか、そういう負の感情は見てとれない。イギリスは負の感情にはとても敏感だ。多分きっと嘘ではないだろうと思えるから厄介だ。
イギリスは『ああ…』と心の中で全てを投げ出すような溜息をついた。
本当に、当人の言う通りに可愛がってやろうという意思しかないのかもしれない。凄く迷惑な話だ。
でもそこに溢れるほどの執着と愛っぽいものを感じとって、イギリスの胸がきゅうきゅうと締め付けられる。わざと残された理性が執着される事に喜んでいる自分を理解してしまった。気付きたくなかったのにと、じわりと涙が浮かんでしまう。
「お前、泣き虫だよなぁ」
そんな事をいいながら、汗ばんだ前髪を掻きあげられて、額と眦にキスを受けた。それからまた、ゆっくりとナカに入って来てイギリスは充溢に無意識に声を漏らした。
「…あっ、あっ、あっ」
（…畜生…！こんな抱き方どこで覚えて来やがった…！）
この間まで童貞だった癖に、と内心舌打ちする。
しかも攻め所も引き際を心得ていて、お前はあの日のヤツと同一人物なのかと問いただしたくなる様相だ。
（…まぁ、最初の時も後半は手慣れたもんだったけどな！）
運動神経のいいヤツはこれだからいけない。とっととコツを覚えてこちらを翻弄して来る。ちょっと下手なくらいが愛嬌があるってもんだ。
緩く、しかし刺激の強い快感の中でプロイセンを罵倒しながら、声だけは甘ったるいものしか吐き出さない。
愛を囁かれる度にトロトロに蕩けて体全身で喜びを表現して、唇からも「俺も…」とかいう言葉が零れた。
「おれも、すき…すき、だからっ」
（だから、はやく…イけよ…）
お前だって辛いんだろうが、という続きは出ては来なかった。
バカバカしい事に、この戯れに慣れてきつつある。
（終わるのが勿体ねぇ…とか…）
だって凄く愛されてる気がする。ジャムのように時間をかけてトロトロに煮詰められて、それがなんだか、とても…。
（愛しい…とか）
体は悲鳴を上げている。爪先がベッドを掻いて、縋る指先は汗で滑ってプロイセンの背中を引っ掻いた。その爪痕を「男の勲章」とかバカみたいな事をいう面をハッキリ言って殴り倒してやりたい。殴り倒してやりたいのだが、きっと手なんて出せないのだろうと思って、自分に呆れた。
凄くいいようにされている。その自覚がある。でも、好きになってしまった。気付かされてしまった。もう、気付く前には戻れない。
「あっ、あっ！」
背中が弓なりに反って、すぐに頂点を目指そうとするのに、再びずるりと抜ける感触を知覚した。絶望と同時に安堵を覚えて泣きたくなる。
とうに体は限界を越えていると思われるのに、懇願して許しを請うて、それが嘘になりつつある。
酷いジレンマだ。心と体がバラバラになって壊れてしまいそうだ。
（いや、もうどっか壊れて来てんじゃねぇ？）
浸食が緩やか過ぎて気付いていないだけで。
「…うっ、あっ、ぁあっ」
再び押し込まれて喉が鳴る。灼き切れそうな快楽の端っこの冷静な思考。その思考もどこか狂ってるんじゃ無いのかと自問する。
（…もう狂ってるの、かも…）
だって正常な判断が出来ていない。今日搭乗する筈だった飛行機はとっくの昔に離陸した。今日泊まるホテルからだって、随分前に電話が鳴って…もう沈黙を通している。だってもう深夜だ。
バカな事をしていると思う。本当にバカな事だ。
愛されるのは怖い。愛するのもまた怖い。
いつ失ってしまうのかと終始怯えなければいけないし、自分の相手に対する感情が本当なのかと常に不安がつきまとう。
分からないものは怖い。今も本当はまだ逃げ出したい。
（お前は俺のものだって言ったけど…）
それは果たしていつまでだ？
自分にかけられた魔法のようにいつかぱっと消えてしまうのかもしれないと思うと、怖くて堪らない。けれど、目の前の情熱に歓喜しているのも確かで、イギリスはぽろぽろと涙を零した。
だから、最初から受け入れるべきではなかったのに。
「すき、すきだ…プロイセンっ」
だから明日にはこの腕からまた逃げだすのだろうという確信があった。
だけど。

とびっきり性質の悪い魔法に、
今夜だけはかけられてやってもいいと、そう思った。


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