■【裁きの剣】■ 10

「…Lが帰って来ない…」


【裁きの剣】


ぶっすりと膨れたままのメロがそっぽを向いたままボソっと漏らした。
ニアは貸し与えられた部屋の中で豆を挽きながら、ちらりとメロを眺める。
「……」
「…………」
「……」
「………………何か言えよ」
あらぬ方向を眺めたまま、メロの剣を研ぐ手は止まったままだ。
彼も、その可能性に気付いているのだろう。ぶっすりとむくれたまま、その表情の中に不安と嫉妬と安否を祈る色をない交ぜにさせていた。
「…何か、ですか。メロの大好きなチョコがありますけど」
「………、お前、図ったな」
「図ったという程ではありませんが」
何か言え、と言ったのはメロの癖に、ニアの言葉を無視して話かけて来る。
「まぁ、夜神月がLの腕前を見ればもっとLに興味を持つのでは…くらいには思いましたけど。まさかあのタイミングで現れるとは…」
思っていませんでした。
正直に伝えると、メロはやっとニアを見る。
その顔は恐ろしいくらいに真剣だ。
メロは嫌になるくらいにLの事ばかり考えているのだと思った。
「…本当だろうな」
「本当です」
低い、声に。ニアは切なくなる。
こんなにも自分はメロの事ばかり考えているのに、少しもメロは此方を見てくれやしない。
…まあ、その思いを抱えているのは何もニアだけでは無いのだけれど。
メロの方が余程切ないのだろうけど。
「……ふん」
ニアの切なさを帯びた視線に気付いたのか、メロが鼻を鳴らしてそっぽをむいた。
どうやら全てが全て計画されたものでは無かった事で免罪されたようだった。
「…メロ」
「何だよ」
「私の事が嫌いですか」
「…嫌いだよ」
「それは私がー………だったからですか?」
ひそりと告げた声。
小さく小さくメロにだけ伝わるように囁いたのに、それは思ったよりも大きく響いたように感じられた。
「…それは。確かにそれもあった…けど。それはもう関係無い事だろ。…結局が、今だ。…それに、誰に認められなくてもLが認めてくれた。それだけで満足だ」
だから関係無い、とメロは言い放つ。
「ならば、何故?」
幾度も関係を持った事はある。それ程嫌われてはいないと思うけれど、メロは時折本当に憎らし気にニアを睨む事がある。
ニアには大概の事が手に取るように分かる。Lの事でも、彼が本気で隠そうとしなければ、ほぼ完璧に理解できるだろう。
しかし、それが彼の気持ちに限っては、分からない事の方が多い。
「お前に言う義理は無いね」
『関係ない』などと言わない所が彼らしいなと思った。そもそもつけいる隙を与えてくれる人ならば、ニアがこれほど手こずるワケも無い。
「…メロ。」
「昨日はあんなに威勢が良かったのに、何だよ。何でお前が一番苦しそうな顔してんだ」
「……」
言われて酷く驚いた。
いつもと同じ表情をしていると思ったのだ、自分は。
いや、そもそも。自分がどんな顔をしているかなんてちらりと脳をよぎる事も無い程、気にかけていなかった。
切なさはあっても、苦しいなんてちっとも思ってはいなかったからだ。
再びメロの視線がニアを捉える。
Lの事を聞いた時同様、メロの視線は厳しい。
「なんてカオしてんだ、バーカ。」
ニアは唇を真一文字に結ぶ。
メロは卑怯だと思う。
振り返ってくれない癖に、一番痛い所を優しく撫でてゆく。
「…私は」
「お前はいっつも同じ顔してっから逆にバレバレなんだよ。」
そしてメロは再びぶすっとした表情でそっぽを向く。
私は。
少し俯いたまま、しばらく顔を上げられなかった。



To be continiued



…アトガキ…
ニアがメロを焚き付けてLとの試合をさせて、月に更に興味を持たせる…という事は計算内でしたが、恋仇でもあるLの事はニアも本当に大好きで、けしかけたのはいいけどニアも傷ついているのだと云う話。
解説しないと分からないってどーゆー事だ。コラ。
結果の為にはいつでも無情になれる風を装っていて、一番傷つきやすければいーなーという妄想の元生まれました。
だってニアたん内股(関係ない)。

会話書いてるのが大好きです

水野やおき
2005.10.02


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